【第33回】「人ごとではない」 加害者家族も支援必要  国内初の団体設ける

東京拘置所で代理面会を終えた阿部恭子さん。「外部と隔離される加害者は、差別に直面する家族のつらさが分からない。ギャップを埋めるのも私の役割」=6月12日、東京都葛飾区(撮影・堀誠)

 6月最後の日曜午後。仙台市中心部にある会議室に中高年の男女数人が集まった。子どもや配偶者が殺人などの罪を犯した「加害者家族」の分かちあいの会だ。2カ月に1度、それぞれが普段は閉じ込めている思いを吐き出す。
 「冠婚葬祭に呼ばれず、ずっと地域から孤立したまま」「事件が兄弟の就職に影響しないか」
 涙や相づち、時には笑顔も。約2時間後、進行役の阿部恭子さん(39)は、少しだけ軽くなった足取りを見送った。
 

 ▽見ぬふりできぬ

  会の主催は、阿部さんが代表を務めるNPO法人「ワールドオープンハート(WOH)」。2008年に国内で最初に加害者家族支援を始めた。仙台のほか、東京などでも家族会を開き、全国から参加者が集まる。
 ボランティアに取り組むなど、少女時代から社会問題に関心があった阿部さんが加害者家族支援を志したのは大学院生のとき。「犯罪被害者らマイノリティーと自殺との関連」について研究する中で加害者家族も中傷や罪悪感に苦しみ、自殺に追い込まれていると知ったのがきっかけだった。
 調べると、加害者家族のための相談機関は欧米では一般的なのに、日本には一つもなかった。
 「必要としている人がいるはず」。どれほど需要があるのか見当はつかなかったが、見て見ぬふりはしたくなかった。
 設立を伝える記事が新聞やネットに載ると、全国から相談が殺到した。最近の話から、半世紀前の凶悪事件と年代は幅広く、被害者でもあるが、気持ちのやり場のない家族間の事件関係者も目立った。ひたすら話に耳を傾けた。
 加害者の家族というだけで日常が一瞬にして奪われる。「死ね」「殺人者の子ども」といった嫌がらせの電話やネットでの中傷は日常茶飯事。退職や複数回の転居、いじめや半ば強制的な転校…。縁談が取りやめになった人も多かった。
 

 ▽受け止め、つなぐ

娘が殺人未遂事件で逮捕、起訴された東北地方の女性。家族会には欠かさず参加する=6月25日、仙台市(撮影・浅川宏則)

 阿部さんは6月12日、自宅のある仙台から東京拘置所へ向かった。男性被告と会い、しばらく距離を置きたいという家族からの伝言を届ける代理面会。平日しか面会できないため、要請は多い。
 家族の面会への同行なども含めると、これまで200人以上の加害者と関わった。携帯電話の番号をホームページで公開し、24時間受け付ける相談は千件を超す。
 阿部さんがコーディネーター役になり、弁護士や社会保険労務士らさまざまな専門家と家族をつなぐ。事件で転居を余儀なくされた人には不動産会社が賃貸物件を紹介し、土地売却を手伝うなど支援は多岐に及ぶ。最近は、家族の依頼で臨床心理士が犯行に至った経緯を解きほぐす鑑定にも力を入れているという。
 娘が殺人未遂事件で逮捕、起訴された東北地方の40代女性は捜査、裁判といった今後の流れや、被害者との関わり方などについて説明や助言を受けている。「阿部さんと出会えなければ、途方に暮れたままだった」
 WOHはこれまで一度だけ、活動停止を覚悟したことがある。11年3月の東日本大震災。事務所のある仙台市青葉区は震度6弱の大地震に襲われた。余震に停電、断水が断続的に続き、自宅が流失した仲間もいた。震災から1カ月以上たち、ようやく主要メンバーが顔を合わせて「先は見通せないけど、生き延びたからこそ、やれるだけやろう」と活動を再開した。
 

 ▽大阪に2カ所目

 15年には、WOHの研修会で学んだ佐藤仁孝さん(34)が大阪市で全国2カ所目の加害者家族支援団体「スキマサポートセンター」を設立、阿部さんが大阪でやっていた家族会も引き継いだ。阿部さんについて尋ねると「エネルギーがすごい。特に子どもが困っていたら、どこにでも助けに行く気でいますね」
 WOHは韓国や台湾の支援組織との交流も始まり、活動が広がる一方で「被害者の感情を考えたことはないのか」と批判に直面することもある。阿部さんは「被害者をしっかり支援するのが大前提」としつつ、繰り返し訴える。「切り捨てるのは簡単。しかし、被害者と加害者家族、両方への支援があってこそ、個人を尊重する成熟した社会なのではないか」
 背中を押すのは「家族支援は加害者の再犯防止にもつながる」との思いだ。実際、関わったケースでは、家族が支えると再犯率は低いという。
 「家族が変われば、加害者も変わる。中には、犯罪に向かわせたような家族もいるが、支援次第で更生の受け皿になれる」と阿部さん。
 最近は、認知症の家族が、車を運転中に死亡事故を起こしてしまったという相談が増えている。「誰もが当事者になる可能性がある。人ごとではないと伝え続けたい」。SOSの電話は、今日も鳴り続けている。(共同=山口恵)

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