第3部「沈黙」(4) 孤立無援からの脱却 「その先」を見つめて

ひきこもり支援のため、古屋隆一(仮名)はさまざまな人と協力する。「知恵を出し合える仲間」が不可欠だ。

 

 福祉団体スタッフの古屋隆一(ふるや・りゅういち)(41)は、ひきこもり生活を続けていた30代の男性にようやく会うことができた。自治体と連携しながら本格的な支援を始め、男性を巡る環境は大きく変化した。

 認知症の父親は介護施設に入所。男性は生活保護を利用するようになった。古屋や自治体の担当者の提案に、最初はためらっていたが、父親からの仕送りには限りがあることを理解し、受給に同意した。

 精神科の受診を希望した男性のために、古屋は信頼できる医師に診察を頼んだ。数回付き添うと、その後は1人で通えるようになった。

 男性はある時、履歴書を持ってきた。手書きのきちょうめんな文字。「でも、体調が悪くて働けない」とぽつり。古屋の目には「本人なりに頑張ろうとしている」と映った。

 孤立無援の状態から医療や福祉とつながり、男性の生活基盤は整い始めた。「その先」を見つめたサポートは今も続いている。

 家族や自治体の担当者を交えた月に1度の会議では、近所付き合いが議題に。他人と長い間交流していない男性は、周囲との関わりを望んでいなかった。「町内会から退会すればいいのではないか」との意見も出た。

 だが社会生活を送るためには、多くの人と交わり、経験を積む必要がある。「地域の人もどう接すればいいのか分からない。そこを何らかの形でつなぐ必要がある」

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 さまざまな人を巻き込み、支援を続ける古屋には、ある苦い記憶がある。

 以前、ひきこもりの50代男性への訪問活動をしていた時のこと。なかなか会えず、手応えのないまま時間だけが過ぎていった。2年近くがたち、男性は心筋梗塞で突然亡くなった。持病が原因だったが、無力感にさいなまれた。

 医療に詳しい人が支援に入っていれば、自分が強く病院に行くことを勧めていれば、もっと生きられたのではないか。「知恵を出し合える仲間が欲しい」。1人では限界があった。

 古屋はひきこもりや不登校に関心のある支援者や看護師、家族らが集う場を作り、医師や専門家を招いて講演会などを開いている。「支援の輪を広げ、悩みを抱える人が相談できるきっかけにしたい」(敬称略、文中仮名)

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