第2部「救世主」(7) 3カ月で550万円 「自立」信じ高額契約

「全国回復センター」がハローワークに出していた求人票。障害者を雇用すれば国から補助金が出る「障害者トライアル雇用」と書かれている。

 「全国回復センター」(東京)で働くうちに疑念を抱くようになった角田正和(すみだ・まさかず)(40)は、ある日、寮に入所していた男性の脱走を手助けし、自宅まで車で送り届けた。

 男性の母親は当初、センター代表の黒木重之(くろき・しげゆき)を信じ切っていたが、角田が黒木らの人権を無視した行為や、支援の実態がないことを打ち明けると、後悔を口にした。

 一方、角田もその場で母親から契約書を見せられ、驚いた。黒木らは自立支援を名目に、3カ月間で約550万円という法外な契約料を支払わせていたのだ。自宅から連れ出す際の交通費や宿泊代、本人の散髪代などは別途支払うとの項目まであった。

 センターでは、入所者の携帯電話を取り上げ、親にも「(連絡を取るのは)子どものためにならない」と言い、電話番号を変えさせるなどした。その一方で、子どもたちの写真をメールで親に送り、職業訓練などを行っていると見せかけ、安心させていた。

 「職員採用の仕組みにもからくりがあった」と角田。寮の職員の多くは障害者手帳を取得し、「障害者トライアル雇用」という制度で採用されていた。障害者を継続雇用すると国の補助金がもらえる仕組み。角田自身も手帳を持つ障害者だ。

 「補助金が欲しいだけじゃない。障害者なら犯罪行為に気付かないし、気付いて訴えても、誰も信じないと思ったんだろう」。医療や福祉、教育分野などの専門的な知識や経験を持つ職員は1人としていなかったという。

 「ひきこもり解決します」「子どもを助けます」。インターネット上には、センターのような業者のサイトがあふれる。だが業者の実態は国も自治体も把握できていない。

 こうした業者を頼らざるを得ない状況に追い込まれた親自身も、揺れ動いている。

 角田が逃走を助けた男性の母親は「ひきこもりの息子を何とかしたい」と必死で、黒木のことを“救世主”のようにすら思っていた。だまされていただけだと気付き、本人が望まぬ環境に置いてしまったことを今も悔い、自分を責め続けているという。

 一方で、黒木に感謝する親もいる。息子(31)を託した九州地方の母親は、記者にこう言い切った。

 「長い間、仕事にも就いていなかった子がやっと働き始めました。黒木さんのことを悪く思うことなどありません」(敬称略、文中の人物、団体は仮名)

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