コメディーで男女平等とテロ阻止を 国連活動、ピコ太郎さんも協力

ピコ太郎さんとインド、インドネシアの芸能関係者ら。後列右から2番目がマテュールさん、前列右端がクムラさん。3月1日、上智大学

 

 女性問題に取り組む国連機関「UN Women」が、男女平等や平和のメッセージをより多くの人々に浸透させようと、コメディーを活用した取り組みをアジアで始めた。テロを起こす過激派組織は若者を勧誘するため、娯楽動画を巧妙に利用するようになっており、正攻法だけでない新たな発想で対抗していくのが狙いの1つだ。

 3月1日、UN Womenなどが上智大学で開催したイベントで、女性用シャンプーのCMに見立てた1本の新作動画が紹介された。シャンプーの商品名は「BRAINWASH(洗脳)」。使えば自分の意見は洗い流され、男性の言うことを従順に聞き、テロ組織の勧誘にも二つ返事で応じる「理想の女性」になれる。最後は「存在意義は赤ちゃんを産むことだけ。あなたには価値がないから」と笑顔で締めくくられる。

 よくできたパロディーに笑っているうち、抑圧された女性像や、テロ組織が用いる理屈の異常さに気付かされる内容になっている。

 動画は、世界のコメディアンと提携するインドの動画制作会社がUN Womenの依頼で作成し、動画共有サイト、ユーチューブなどで公開した。女性を演じるのは、インドのムンバイを拠点とする映画産業「ボリウッド」で活躍する女優アーハナ・クムラさんだ。

 

 UN Womenの加藤美和アジア太平洋地域事務所長は「コメディーはオンラインで最もシェアされやすい」と語り、笑いはメッセージの拡散に最も有効だと説明する。

 こうした取り組みが始まったのは、2016年7月、バングラデシュのダッカで武装グループが飲食店を襲撃し、日本人ら多数が殺害されたテロがきっかけだ。加藤事務所長は「自分と違う意見の人がいたとき、それを暴力的に解決しようという発想との戦い方」を模索した結果、警察や法の枠組みに頼るだけでなく、生活に密着した存在である女性に働きかける方法に行き着いたと説明する。

 巧妙化する過激派組織のPR活動に対抗する狙いもある。今回の動画を担当した制作会社のプリヤンク・マテュール代表は、過去に米国の国土安全保障省で対テロ情報担当を務めた経歴の持ち主。マテュール氏によると、過激派組織のPR手法は、国際テロ組織アルカイダの指導者だったウサマ・ビンラディン容疑者の時代とは様変わりした。「イスラム国」(IS)のPR動画は、若者に人気のビデオゲームやアクション映画をそっくり真似し、宗教色は極力排除して警戒を解くものが多いという。

 UN Womenなどの調査によると、女性の地位向上という潮流を逆手に取り、「戦い方を学ぼう。強くなろう」と呼びかけて女性を過激派組織に勧誘する手法も目立ち始めた。

 マテュールさんは「こちら側も発想を変え、娯楽の力を使わなければ対抗できない。退屈な内容ではだれも見てくれないので、お笑いを取り入れようと考えた」と語る。

 1日のイベントでは、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」推進大使を務める歌手のピコ太郎さんも、UN Womenの依頼で制作した曲をお披露目。世界的にヒットした面白ソング「ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)」の替え歌で男女平等、世界平和を訴え、会場を沸かせた。男女平等は17種類ある開発目標の1つだ。

 ピコ太郎さんは「皆さんから小さなスマイルをもらい、少し心の門を開けてもらう役目はできたかな。今後は大きな動きにつながっていけば」と話した。

 「BRAINWASH」の動画は、公表から約1週間でユーチューブでの再生回数が21万回を超えた。UN Womenは、今回の成果を踏まえて今後もPR動画を制作していくとしている。 (共同通信=藪井 真澄)

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