
北海道比布(ぴっぷ)町に2024年7月、野球の木製バットをオーダーメードで作る工房が開設した。手がけた稲原周作さん(25)は大学まで野球に打ち込み、仕事でも携わりたいと職人の道に進んだ。機械での量産が主流となる中、一本一本手作業で削り、長さや形状などの要望にミリ単位で応える。「自分が作ったバットで活躍してくれることがうれしい」と、やりがいを口にして笑顔を浮かべた。(共同通信=田代展嵩)
隣接する旭川市出身。兄の影響で小学2年から野球を始め、道内で強豪の旭川実業高に進学。北海学園大(札幌市)ではピッチャーとして全国大会に出場するなどし、プロや社会人野球を目指したが、かなわなかった。
大学4年の秋ごろ、木製バットの職人を取り上げる新聞記事を偶然見つけ「仕事で野球に関われる」と飛びついた。すぐに一大産地の富山県南砺市にある工場に連絡を取り、入社。先輩から技術を学び、休日返上で木を削る練習を繰り返した。
約1年半後、「一から自分で作り上げたい」と独立を決意。交流があった比布町役場関係者の勧めもあり、地域おこし協力隊員として町が所有する廃校の一部を借り、工房「KITAKARA」を開いた。
道内産の木材にこだわり、主にイタヤカエデ(メープル)やメジロカバ(バーチ)を使用。機械で回転させながらのみで削った後、さらに形を微調整する。やり直しはきかず、使い心地を大きく左右するグリップ部分は特に集中する。
選手によって形や太さの好みが分かれるほか、「注文から発送まで1人でこなすのは大変だが、お客さんが活躍する姿を想像しながら、大好きな野球に関われるこの時間が楽しい」と話す。
SNSや口コミで工房の評判が徐々に広がり、少年野球チームから社会人まで、幅広い年代から注文が入るように。「いつかプロ野球選手になる人が出てきてくれたら」。ひそかに期待しつつ、木材との真剣勝負に挑んでいる。
