
北海道網走市の道立北方民族博物館は、アイヌ民族やイヌイットなど、寒冷地で生活する先住民族の文化に焦点を当てた国内唯一の博物館だ。同市は大陸とつながりがあったとされるオホーツク文化がかつて栄えた地域で、館長の呉人恵(くれびと・めぐみ)富山大名誉教授(言語学)は「北方民族について学ぶことは、豊かさとは何かを考える機会になる」と話す。(共同通信=阿部倫人)
2月上旬、同館を訪れたさいたま市の会社員岡田希実さん(42)は、ほぼ原寸大で復元されたイヌイットの竪穴住居を食い入るように見つめた。冷たい外気が居住空間に吹き込まないよう、地中のトンネルから出入りする構造に「知恵と工夫がすごい。どれも本当に興味深い」と驚いていた。
博物館は1991年2月、北海道を含めた厳しい自然環境に適応した人々の文化的特徴や、民族間の相互関係などを調査研究し、成果を普及する目的で設立された。
博物館によると、網走市周辺は6~11世紀ごろ、サハリンや千島列島の沿岸部にもみられるオホーツク文化が栄えた。大陸にルーツを持ち、船を使った漁労や、クジラ、アザラシなどの海獣狩猟を営んだと考えられ、呉人館長は「網走は北方民族研究にとって象徴的な場所」と強調する。
館内は動物の皮や内臓から作られた衣類のほか、骨や植物を加工した道具など、各民族が生活に必要な物を自然から得てきたことを示す約900点の展示が並ぶ。貨幣経済が確立した現代社会と比べ、北方民族は自然や物との関わり方が多様で「非常に厳しい環境の中でも不便だとは全く思っていなかったはずだ」。
2026年2月には開館35周年となり、博物館によると累計入館者数は2025年度中にも100万人に達する見通しという。海外から研究者を招いてシンポジウムを開くなど研究拠点としての役割も担い、呉人館長は「高いレベルの研究を続けながら、楽しんでもらえる展示を作っていきたい」と話す。

