
グラスに注がれた濃い紫の液体がピンク色や淡い青色に―。インドの若手起業家ら3人が、ソーダや水を注ぐと色が変わるジンを開発した。インドで多数派を占めるヒンズー教では飲酒は好ましくないとの価値観が伝統的に強いが、柔軟な発想でナイトライフに彩りを加えようとしている。(共同通信ニューデリー支局=岩橋拓郎)
インド南部ゴア州カコダにある小規模な蒸留所で、3人が開発した「ニサキ・ジン」が製造されている。水を注ぐと落ち着いた青、トニックなら華やかなピンク、ソーダで割れば上品な紫に変化するのが特徴だ。
「どの国にとってもアルコールは文化の一部。日本酒や梅酒もそうでしょう?」と開発者の1人、サンチット・アガルワルさん(33)。米シアトルで約10年、企業買収やIT関係の仕事に携わっていた。だが「インドは酒がタブー視された時代から徐々に抜け出し、今では文化を構成する要素になっている」と商機を見いだした。
同じ西部ムンバイ出身の仲間2人と起業しようと決め、2022年、健康志向で人気のジンの調査から始めた。酒店の店主やレストラン、バーに足を運んだ。ジンの色が変わると評判が出るのではないかと思い至った。
着目したのはマメ科の植物「バタフライピー」。化学反応で色が変わる性質があり、料理にも使われる。味や色を試しては配合の仕方を変えること47回。1年にわたる試行錯誤の末、変色するジンの開発に成功した。化学エンジニア出身のアキレシュ・ラジャンさん(32)は「その日の気分で色を変え、楽しむことができるんだ」と顔をほころばせる。
ビーチリゾートがあるゴア州は世界各国からの観光客が多く「最初に売り出す市場としてふさわしかった」とアガルワルさん。2024年に販売を始め、月7千~9千本ほどを出荷。今後生産能力を拡大する予定という。「インドの豊かなスパイスを使って新しい酒を開発することもできるね」と夢を膨らませた。



