トヨタがモータースポーツ史に残した大きな足跡 WRCで「3冠」獲得

総合王者を獲得して、喜ぶトヨタのセバスチャン・オジェ(左)とコ・ドライバーのジュリアン・イングラシア(C)WRC

 十年一昔と言うが、やはり10年以上の間隔を空けて成し遂げられた快挙は人々に強く訴えかけるものがあるのだろう。

 2001年、マリナーズで米・大リーグデビューを果たしたイチローが、新人賞、首位打者、盗塁王、ゴールデングラブ賞、シルバースラッガー賞など、主要タイトルをいきなり総ナメした。そして、日本人初、そしてアジア人初としてリーグMVPに輝いた。その活躍に日本中が熱狂したことが、今も鮮明に記憶に残っている。

 あれから20年、今度はエンゼルス所属の大谷翔平がやってくれた。打者で46本塁打、100打点に加えて26盗塁。投手としてもシーズン9勝―。二刀流どちらも結果を出してのリーグMVP獲得だ。しかも、投票権を持つ記者30人全員が1位票を投じるという文句なしの結果だった。ちなみに、満票は15年のブライス・ハーパー(当時ナショナルズ、現フィリーズ)以来で、複数の米メディアによるとメジャー史上19人目という。

 28人による投票だった01年はイチローに1位11票、ジェイソン・ジアンビ(当時アスレチックス)に1位8票が投じられるなど僅差だった。日本と違い、米国ではジアンビの2年連続MVPが阻止されたことの方が大きく報道されていた。

 一方、プロ野球では6年ぶりにセ・リーグを制したヤクルトと25年ぶりにパ・リーグ優勝を果たしたオリックスが対戦。前年の最下位チーム同士が戦うのは80年を超えるプロ野球の歴史で初めてのことだ。

 レースの世界に目を向けると、11月21日に記念すべきことが相次いだ。F1では40歳のフェルナンド・アロンソ(アルピーヌ・ルノー)が初開催となったカタール・グランプリ(GP)で3位に入った。2005年から2年連続で年間総合王者を獲得するなど輝かしい実績を誇るアロンソも近年は苦しんでおり、表彰台に立ったのは何と7年ぶりのこととなる。

 これを上回ることが起きたのが、世界ラリー選手権(WRC)だ。

 イタリア北部のモンツァで開催された最終戦ラリー・モンツァ。トヨタのセバスチャン・オジェが今季5勝目を挙げて、自身8度目となる総合王者を獲得した。トヨタは製造者部門と走行の補助をする「コ・ドライバー部門」でも総合優勝をしているので、「3冠」に輝いたことになる。

 トヨタがドライバーと製造者の両部門でタイトルを獲得したのは、WRC復帰を果たした18年以降では初めて。過去をさかのぼると、ディディエ・オリオールが総合王者、トヨタも総合優勝した1994年以来、じつに27年ぶりの快挙なのだ。余談になるが、当時と今回のドライバーとコ・ドライバーがともにフランス人コンビというのは興味深い。

 トヨタは2017年に「TOYOTA GAZOO Racing WRT」という新体制でWRC復帰後、開幕2戦目にして勝利。続く18年に製造者部門のタイトルを獲得すると、19年には当時所属していたオット・タナクが総合王者になった。昨年もオジェが7度目のワールドチャンピオンを獲得。そして今年、ついに両タイトルを獲得した。

 このように、WRC復帰後のトヨタの記録は輝かしい。それでも、両タイトルを獲得したことは格別なのだ。

 1995年にドジャースでデビューした野茂英雄が開拓。2001年のイチローMVP獲得で盛り上がった大リーグへの熱狂を、今年の大谷翔平は思い出させてくれた。今回のトヨタのタイトル獲得で、1990年代に人気を呼んだ当時のF1やWRCの熱狂を思い出した人も多いだろう。今年の東京五輪・パラリンピックでも再確認したが、母国選手や母国チームの活躍は本当にうれしいものだ。

 残念ながら、新型コロナ感染再拡大の影響でF1やWRCに加え、オートバイの世界選手権シリーズで最高峰に位置するモトGPクラスの日本開催は昨年に引き続き、見送りとなった。

 来年こそは、日本で世界レベルのレースを開催してほしい。そのことがファンを熱狂させ、モータースポーツへの注目が高まる呼び水となることを期待したい。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

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