危なげのない1―0の完勝 伊東、大迫の見事なコンビネーション

サッカーW杯最終予選 中国戦の前半、先制ゴールを決め、ガッツポーズする大迫と祝福する伊東(14)=ドーハ(ゲッティ=共同)

 日本がW杯に出場するようになって以来、9月2日のオマーン戦はアジア勢を相手にしたなかでも最も内容の悪い試合の一つだった。アジア最終予選、0―1で敗れた一戦は勝てる可能性が限りなく低い試合だった。

 東西に広大な範囲で国の散らばるアジア。そこでホームアンドアウェーで試合をするのは負担が大きい。特に欧州組がメンバーのほとんどを占める日本の場合、影響は大きい。時差が7、8時間もある日本に戻り、準備もままならずに試合をするのは、コンディション面ではほとんどホームの利がない。それが露呈したのが、明らかに動きの重かったオマーン戦だ。

 今はまだ、アジアの中で日本は実力面で圧倒的な優位を保っている。だから、あまり問題にならない。しかし、オマーンに敗れた直後、いずれは日本もアジア予選で敗退してW杯の出場権を逃す時が来るだろうなと想像してしまった。強豪のイタリアやオランダでも予選敗退があるのだから、日本にないとは言い切れない。とても怖いことだが。

 その意味で日本時間の9月8日未明にカタールで行われた中国戦は、非常に重要な試合となった。「絶対に負けられない」という言葉をよく聞くが、今回は「負けられない」ではだめで絶対に勝利を収め、3ポイントを手にしなければいけない試合だった。

 屋根が開いているのに空調が効き、快適な気温に保たれたドーハにあるハリファ・インターナショナル・スタジアムでの一戦は拍子抜けする立ち上がりだった。日本と同じく初戦を落として、勝ち点を得なければいけないはずの中国にまったく覇気がない。日本を過剰にリスペクトしてくれたのか、自陣ゴール前に閉じこもって攻めに出る気配がまったくなかった。

 当初は3バックにウイングバックを配置した布陣と思われたが、日本に押し込まれるためウイングバックが最終ラインに吸収されている。完全な5バックに3人のボランチ、そして2トップのフォーメーション。中国の欧州組、スペインでプレーするウー・レイとブラジル出身で中国国籍を取得したエウケソンは警戒すべき相手だった。しかし、自陣に引き過ぎているからロングボールからのカウンターも日本ゴールまでが遠い。守っているGK権田修一は怖さを感じることはほぼなかっただろう。

 中国の徹底した籠城戦。一方的に日本がボールを支配する展開となった。しかし、兵法では城攻めには3倍の人数が必要ともいわれる。日本は攻め続けるが、赤いユニホームの人口密度が高いペナルティーエリアにはなかなか入り込めない。ペナルティーエリア外からのシュートは放つものの、人の壁で対抗する中国のゴール枠をとらえるのは簡単ではない。

 前半に関しては、日本が失点する可能性はゼロだった。半面、点を取れる保証もなかった。前半23分、大迫勇也をポストに使った久保建英の右足シュートが左ポストをたたく。さらに前半38分、久保のシュートをGKがはじく。フォローした伊東純也が短くつなぎ、大迫が狙ったが再び左ポストに阻まれる。2度のビッグチャンスを決められなかったあたりで嫌な予感がした。攻め続けてもゴールという結果に結びつかない状況が長引くと、主導権を握っているチームの側に焦りが出るということがままあるのだ。

 しかし、そんな心配は無用だった。前半40分、待望のゴールが生まれた。「1対1の状態だったんでシンプルに仕掛けてクロスというのを狙って、イメージ通りにいきました」。アシストした伊東が語った通り、スピードをいかして右サイドを突破。それに合わせて中国の守備ラインとGKの間に飛び出した大迫が、右足のジャンピングボレーでコースを変え、ゴール左に流し込んだ。

 お互いの特長を理解した上での信頼感が実ったゴールだろう。大迫は「試合前から純也(伊東)と話していましたし、その通りのボールが来た」と振り返った。伊東が右サイドを仕掛けた瞬間、大迫はちゅうちょなくDF陣を置き去りにゴール前に飛び出した。クロスの角度によってはオフサイドの可能性もあるのだが、伊東のスピードを考えれば自分より前方から折り返されると確信していたのだろう。その意味でも素晴らしいコンビネーションだった。

 まったく攻める気を見せなかった前半と違い、後半の中国はさすがに点を取る意欲を見せてきた。ただ、前半の1本を含め、試合を通して3本のシュートを放ったが、日本のゴール枠に飛ばすことはできなかった。

 日本からすれば1―0の最少得点勝利だったが、危なげのない試合だった。ただ、1点では何かのアクシデントが起きないとも限らない。「勝ち点3は取りましたけど、物足りないところもたくさんありました」。試合後に語ったキャプテンの吉田麻也も、そのことを言いたかったようだ。

 とにもかくにも、まずは日本が本来の動きを取り戻して勝ち点3を得たことは良かった。オマーン戦を見た時点では、チーム状態がかなり悪いのではと心配していた。あとは確実にライバルを倒していくだけ。最終予選は、内容よりも結果が最優先だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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