攻め込まれても慌てることのないイタリアン・メンタル 日本の強みは吉田、冨安のCBコンビ

サッカー男子強化試合 日本―スペイン 前半、競り合う吉田(中央)ら=ノエビアスタジアム神戸

 参加16チームの中で、どちらも良いチームだ。両者の違いを探せば、金メダルにチャレンジするチームと、金メダルを取りこぼさないようにと思っているチームの違いか。日本はかなり良いチームだと思っていたが、7月17日の本大会前最後の強化試合を見ていたら、スペインのレベルは日本より明らかに高かった。

 悲観しなくてもいい。ポゼッションで日本の36パーセントに対し、64パーセントを記録したスペインが2倍強いわけではない。チームスタイルが違う。やりようによっては勝機を見いだせる範囲内だ。それは1―1の結果が示している。

 テレビ観戦していた欧州選手権。優勝したイタリアに準決勝でPK戦の末に敗れたが、高い評価を受けたのが「無敵艦隊」。そのEUROに出場した選手が6人もいる。東京五輪は1年延期になったことで、本来ならU―23の制限がU―24に変わった。プロの世界では24歳はもう中堅だ。男子サッカーは、百戦錬磨のオーバーエージも含め、間違いなく大人のチームの大会となる。

 来日したのは日本戦3日前の14日。時差ボケも解消されていなければ、日本の蒸し暑さにも慣れていないはずだ。しかも、アセンシオ、セバリョス、メリノの3人のオーバーエージが加わったのは日本戦が初めてだという。それでも、スペインが見せたサッカーは、われわれの知る典型的なスペインのサッカーだった。技巧に優れた選手たちがパスをつなぎ、相手を押し込む。そして、機を見て相手の心臓部をえぐるラストパスからフィニッシュに持ってくる。

 日本になくて、伝統国にあるもの。それは、その国独自のサッカースタイルだ。昔、イタリアに行ったときミラノ近郊の少年チームを取材したが、話を聞いた指導者は「アズーリ(イタリア代表)と同じシステムで子どもたちにプレーさせている」と話していた。欧州では日本と違い、子どもでも普通にチームの移籍がある。新しいチームにもすぐになじめるように、というのが理由だった。

 今回のスペインも、交代選手も含めスペインのサッカーを当たり前に行った。スペイン代表の披露するサッカーはバルセロナやレアル・マドリードなどに代表される強者のサッカーだ。それをリーグ下位のチームの選手、ヘタフェのククレリャらが問題なくこなす。

 確かに日本には、これだという一貫した基本スタイルはない。代表監督によってスタイルは変わる。ただ、今回の五輪代表には確固たる基盤がある。この日のスペインのように圧倒的にボールを保持して攻め込む相手に対しても慌てない守備だ。

 日本代表のゴール前にはイタリア人がいる。メンタルという意味でのことだ。キャプテンの吉田麻也と冨安健洋は、攻め込まれる時間が長くても当然のように耐えて受け流す。それは、守備に美学を見いだすイタリアでプレーしていることが大きい。しかも所属するのは、サンプドリアやボローニャという中位のチーム。ユベントスやインテル、ミランを相手にすれば、守勢に回らなければならない状況が常に生まれる。その経験を重ね、攻め続けられることにも耐える力が養われている。

 スペイン戦、ハーフタイムに7人も交代したので90分の評価をすることは難しい。後半にCB2人が瀬古歩夢、町田浩樹に交代したが、吉田、冨安コンビのラインコントロールは、若い2人に比べ2、3メートル高い位置に保たれていた。この数メートルに大きな違いがある。シュートの位置を遠ざけ、守備ブロックの中に相手を入れなければ、相手にいくらボールを持たれようが失点の可能性は低くなる。ゴールを守る意識を持ちながら、下がらないというのは結構難しい選択だ。

 さらに頼もしく思ったのが、右サイドバックの酒井宏樹の存在だ。フランスで身体能力の高い選手と対戦していた経験がいかんなく発揮された。前半39分、右サイドでオルモとミランダを相手にする1対2のピンチになったが、相手がパスを出すと同時に反転。追い付き、スライディングでクロスをはじき出した。その反応の早さは、Jリーグではあまり目にすることのできないレベルだった。

 左サイドバックに攻撃力をいかした旗手怜央を使うのか、守備に強い中山雄太なのか。状況によって使い分けるだろうが、最終ラインは堅固だ。しかもボランチには遠藤航と田中碧がいる。あとは攻撃陣がいかに得点するかだ。

 日本の攻撃陣に、18歳のペドリが投入されてからのスペインのような迫力を求めるのは酷かもしれない。それでも久保建英、堂安律のコンビから生まれた前半42分のスーパーゴールは、チームの大きな可能性を示すに十分だった。堂安もスペインとの間には「やはり力の差は感じた」と言いながらも「1対1という結果に関しては満足していいんじゃないか」と話していた。0―1で敗れていたら実力差は重くのしかかっただろうが、点を取り、そして、やり方によっては勝つ可能性も見いだした。その意味で、とても貴重なテストとなった。

 本番は酷暑の時期に、中2日で試合が続く。メダルを獲得するかどうかは、コンディショニングが大きく左右する大会になるだろう。日本は幸いホーム。しかも、計算できるイタリア仕込みの守備がある。ファウルをしても笑いながら欧州を制した「アズーリ」のキエリーニとボヌッチの最強CBコンビ。吉田と冨安に、2人にあやかり、東京五輪で同じ頂点への道をたどってほしい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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