五輪代表の鍵を握るオーバーエージ 起用次第では宙に浮く板倉の問題

サッカーW杯アジア予選 日本―ミャンマー 試合終了間際、チーム10点目のゴールを決め、雄たけびを上げる板倉(20)=フクダ電子アリーナ

 以前、日本代表が埼玉スタジアムで練習するときに、近くにある浦和東高校を頻繁に練習相手に選んでいた。もちろん試合は日本代表が勝つのだが、スコアが1対0ということもあった。単純に得点だけをみれば、ミャンマーは埼玉の強豪校よりも弱かった。5月28日に行われたワールドカップ(W杯)アジア2次予選。ミャンマーとの試合は、日本が10対0と大勝した。両チームの間にあまりにも実力差があり過ぎて、なんの参考にもならない。それでも、考えさせられることがいくつかあった。

 冨安健洋が足の違和感を訴えてベンチ外になったこの試合。吉田麻也とセンターバックのコンビを組んだのはA代表5試合目となる板倉滉だった。今季の板倉は、オランダのエールディビジのチーム、フローニンゲンで全34試合にフルタイム出場し、チームの年間最優秀選手に選出されている。エールディビジでもフル出場を果たした選手はGKを除けば2人だけという。オランダは欧州五大リーグには入っていないものの、快挙といえるのではないだろうか。

 ここで東京五輪のことを考えてみよう。五輪はオーバーエージ3人を使える。そして、この3人はチームに足りない要素を補完する役割を担っている。地元開催の今回、日本はA代表のキャプテンである吉田、右サイドバックの酒井宏樹、ボランチの遠藤航の3人を加えた。トーナメントを勝ち上がるために、守備を安定させるのはセオリーだ。当然、選出に大きな異論は出ないだろう。ただ、センターバックのポジションは、ともに五輪世代である板倉とA代表のレギュラーでもある冨安が2人で組めばいいという考えもある。そうすればオーバーエージ枠を一つ、別の弱点をカバーすることに活用できるのではないだろうか。

 もちろんリーダーの吉田がチームにいる方が良いに決まっている。A代表で世界の修羅場をくぐり抜け、独特の雰囲気がある五輪も2度経験している。ただ、吉田でポジションが埋められれば、板倉がはじき出される形になる。

 板倉は3月のU-24アルゼンチン戦の2試合では、センターバックとともにボランチでも起用された。しかし、ボランチには田中碧とオーバーエージの遠藤がいる。おそらくファーストチョイスとなるこの2人を割って、板倉がボランチの主力としてプレーすることは考えにくい。だからこそ、本来のセンターバックでプレーさせれば問題はないのだ。

 五輪代表チームでもキャプテンに指名された吉田が、メンバーから外れることは考えにくい。ここからの意見は妄想でしかない。それでも考えてしまう。オーバーエージ枠一つを、他のポジションに使えたらと。そうなったら、個人的な意見として間違いなくこれを大迫勇也に使うだろう。

 五輪本番のメンバー絞り込み。6月のシリーズには27選手が招集された。4人がGKなので、3人のオーバーエージも含めて7人を抜けば、フィールドプレーヤーは20人。五輪の登録メンバーは18人。W杯などの国際大会より5人も少ない。たとえば、18人からオーバーエージ3人とGK2人を抜けば13人。それを今回招集されたフィールドプレーヤー20人が争うことになる。かなり狭き門だ。

 FWのポジションにはJリーグ勢4人が招集された。前田大然(横浜M)、田川亨介(FC東京)、林大地(鳥栖)、上田綺世(鹿島)の4人だ。ただ、メダルを狙うとなると、この4人では少し心もとない。大会の上位にいけばいくほど、対戦チームには間違いなくA代表クラスのセンターバックがいるからだ。日本と同じように勝敗を左右する守備のポジションには、オーバーエージを使うチームは多いだろう。

 若いJリーグ勢が、これを相手にしたときに実力を発揮できるだろうか。前田のスピードは間違いなく通用するだろう。しかし、重なるのはロンドン五輪のときの永井謙佑のイメージ。前線の守備重視は思い浮かぶが、攻撃の絡みが出てこない。相手のマークをガッチリと受け止めて、前線に攻撃の起点をつくるCFとしての役割。これを国際経験も乏しい、今回のメンバーができるのだろうか。

 大迫は昨季のブンデスリーガでは残念ながら得点はなかったし、五輪でミャンマー戦のようなゴールラッシュを演じられるわけでもないだろう。しかし、屈強なセンターバックを相手にしても、背中で相手をブロックしてボールをキープする能力は、抜群のものがある。五輪代表に欠ける前線でのタメ。「時間をつくる」という要素を補完できるのだ。

 三笘薫、堂安律、三好康児、久保建英。2列目には、前を向いてボールを受けられたら、さまざまなアイデアを持っているアタッカーが今回の日本にはそろう。その能力を最大限に引き出すために、誰を最前線に置くか。大迫しかないという考えの人も多いのではないだろうか。オーバーエージ枠が、もしもう一つ多ければ、吉田も大迫も使えるのだが。そうなれば、もはやU-24ではなくなるか。

 鍵を握るオーバーエージ。ところで、それよりも地元開催の日本にアドバンテージをもたらすかもしれない武器がある。東京の高温多湿だ。真夏の東京ではよく学校からこのような注意報が出る。「高温のため屋外プールの使用は禁止」。わたしは、さまざまな国に行ったが、中東でさえもこのような話は聞いたことがない。

 こんな過酷な時期に五輪を招致した組織、それを決行しようという国際団体。そもそもコロナ以前に人の健康を考えていない。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材は2018年ロシア大会で7大会目。

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