まさに「百年に一人の男」 投打でファン魅了するエンゼルス大谷翔平

米大リーグのレンジャーズ戦に「2番・投手」で投打同時出場したエンゼルス・大谷翔平。2回に2点二塁打を放ち(右)、5回を投げて4失点で3季ぶりに勝利投手となった=4月26日、アーリントン(共同)

 米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平がとてつもない快挙をやってのけた。

 4月26日(日本時間27日)、アーリントンで行われた対レンジャーズ戦に「2番・投手」で今季2度目の投打同時出場。5回を投げて1本塁打を含む3安打4失点、9三振3四死球で2018年10月の右肘手術後初となる3季ぶりの白星を挙げた。

 大谷は、前日の段階でメジャー最多タイの7号本塁打を記録しており、記録専門会社によると、本塁打でメジャートップの選手の先発登板は1921年6月13日のベーブ・ルース(ヤンキース)以来100年ぶり。

 「投手・大谷」は、初回にいきなり4失点の苦しい立ち上がりとなったが、そんなピンチを救ったのは「打者・大谷」だった。

 2回二死一、二塁の場面では右翼線二塁打で二者をかえす。

 「SHO―TIME」はこれだけで終わらない。立ち直った投球で2回以降は無失点、9奪三振。打っても6回には快足を生かしたバント安打まで決めた。

 味方打線の援護もあり今季初勝利、2018年5月のレイズ戦以来1072日ぶりの白星を手にした。

 まだある。球団広報によれば、先発投手が9三振を奪って2安打3得点以上は、1967年のルイス・ティアント(インディアンス)以来54年ぶりという。

 2018年に日本ハムからエンゼルスに移籍。「二刀流」として投手で4勝2敗、打者で2割8分5厘、22本塁打、61打点の華々しいデビューを飾るが、シーズン後半に右肘を痛めてから苦闘が始まる。

 シーズンオフに肘の手術を受けて翌年は登板なし。さらに昨年は左膝の手術で自己ワーストの成績に終わった。

 こうした肉体面の不安がなくなった今季は、オープン戦の段階から160キロ台の快速球を投げ、特大アーチを連発して完全復活につなげた。

 投げて打つ「リアル二刀流」で、全米に衝撃を与えたのは4月5日のホワイトソックス戦だ。

 勝利投手目前の5回途中に味方エラーもあって降板となったが、投手として160キロを超える速球を投げ、打者としては推定飛距離137メートルの特大弾を放っている。

 まさに超人的な働きにチームメートのジャレッド・ウォルシュは「彼はユニコーン(一角獣)だ」と称賛する。つまり、実在しない生き物に例えて人知を超えた選手と表現したわけだ。

 同僚、野球関係者はもちろん、多くの野球ファンが大谷のプレーに酔いしれている。

 その魅力は投打に限らない。メジャー1年目から10盗塁を記録した俊足も注目の的だ。

 22日のレンジャーズ戦で右中間に6号本塁打を放つと、なぜか大谷は全力疾走。ダイヤモンド一周のタイム17秒3秒は、今季メジャー最速(ランニング本塁打は除く)と報じられた。

 また、25日のアストロズ戦で初めて左翼の守備に就いた際、ファンが落としたサングラスをスタンドに投げて戻してやると、ネット上では「マジにこの男に恋をした」「本物のヒーロー」と人間性の素晴らしさが話題になった。

 いかにファンのハートをわしづかみにしているかが分かるエピソードである。

 ルース以来100年ぶりの快挙の瞬間、大谷はベンチにいなかった。「裏でトレーニングをしていた」という。

 ルースとの比較に話が及んでも「そういう選手を引き合いに出してもらって嬉しい」としながら「その時代に生きていないので分からない」とも語る。

 今春、米メディアが2021年シーズンの大胆予想と題して、大谷の「150/150クラブ入り」を取り上げた。

 投手として150奪三振、打者として150塁打の達成を意味するもので、過去には1880年代に4人だけが記録したという。

 歴史の片隅に埋もれた数字が、大谷の活躍で次々と掘り起こされている。

 過去には、野茂英雄やイチローがメジャーの歴史に新たな一ページを加えてきた。しかし大谷には、偉大な先人を上回る豊かな可能性を感じる。

 メジャーリーガーのすべてが大谷の特別な才能を認め、スペシャルな存在と声をそろえる。まさに「百年に一人の男」なのである。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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