モータースポーツ界の松山英樹になれ! デビューしたばかりのF1角田に抱く思い

インタビューに答える角田裕毅(右)(C)ALPHATAURI

 4月11日(日本時間12日)、米ジョージア州にあるオーガスタ・ナショナルGCで開催されていた男子ゴルフの「マスターズ・トーナメント」において、通算11アンダーを記録した松山英樹が優勝した。歴史と高い格式を誇る年に4度のメジャー大会=全英オープン、全米オープン、全米プロゴルフ選手権、マスターズ=を日本人がついに獲得したことになる。男子アジア勢では2009年全米プロ選手権のY・E・ヤン(韓国)が唯一のメジャー優勝だった。

 憧れる選手が多いことから「ゴルフの祭典」とも呼ばれるマスターズを勝ったことも大きい。マスターズを制覇するのはもちろん、アジア人で初の快挙だ。

 マスターズに日本人選手が初挑戦したのは、85年前の1936年第3回大会に陳清水(当時台湾籍、73年に日本の国籍取得)と戸田藤一郎で、それぞれ20位と29位だった。

 その後、数多くの日本人ゴルファーが挑戦してきた。初めてトップ10入りしたのは73年、尾崎将司の8位。今年、松山が優勝するまでは2001年の伊沢利光、09年の片山晋呉が4位に入ったのが最高だった。

 松山選手が初めて出場したのはアマチュアだった11年。今年で10回目となるマスターズ出場で栄冠を獲得したことになる。試合後、優勝者だけが着用することが許される伝統の「グリーンジャケット」に袖を通すと、松山選手は腕を突き上げて喜びを爆発させた。

 長年、ゴルフは日本人には厳しいスポーツと言われてきた。とくに近年は「パワーゴルフ」と呼ばれる、飛距離がスコアメークの重要なポイントを占めるような時代に入っている。欧米など海外選手に比べると、パワーが劣るとされる日本人選手には不利な状況が続いていた。

 今でこそ、身長181センチ、91キロと体格で見劣りしない松山だが、初出場した11年当時は別人と言えるほどほっそりとしていた。体を鍛え上げたことで海外選手と対等に戦えるレベルになったのだ。

 米ツアーの戦績を確認すると、17年シーズンに3勝を挙げたのを最後に昨シーズンまで未勝利だったものの、世界ランキングは20位前後に付けるなど高いレベルを維持していた。鍛えた体に加え、高い技術と経験値を積み重ね、ついに今年、ゴルフの歴史に名実ともに名を刻んだわけだ。

 F1の世界に目を向けてみよう。今年、日本人ドライバーとしてフル参戦している角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)はデビューからすでに2戦を終えた。第1戦バーレーンGPでは予選13位から決勝9位と入賞を果たす上々のスタートを切った。第2戦エミリア・ロマーニャGPでは予選20位から決勝12位に終わった。

 まだ、2戦を終えたばかりの角田を評価することは難しい。だが、デビュー戦となった第1戦バーレーンGPでは、天性とも思えるオーバーテイクのうまさが感じられた。一方、第2戦エミリア・ロマーニャGPではルーキーらしい凡ミスが目立った。具体例を挙げると、予選1回目(Q1)最初のアタックでのスピンクラッシュであり、決勝レース赤旗中断後の再スタートで起こしたスピンだ。

 走行後に本人が認めたように、どちらもミスだった。第1戦で高評価だったアグレッシブさが逆効果となった。予選でクラッシュしたコーナーは安全確保のために設けられた「ランオフエリア」が狭かった。決勝も初めてのウエットレースだった。だから、言い訳はできる。しかし、角田のドライバー起用を決めたレッドブルのヘルムート・マルコは「彼はうぬぼれていた」と第2戦の角田選手を酷評した。

 大事なのはここから何を学ぶかだろう。ここで思い出される一言がある。1992年のF1総合王者であるナイジェル・マンセルに単独インタビューしたときにマンセルが発した「失敗は愚かしいことではない。愚かしいことは、同じ失敗を何度も繰り返すこと。それはドライバーとして才能がない」だ。

 F1ドラバーとしてだけでなく、ホンダエンジン・ドライバーとしても角田の大先輩であり、93年にはインディーカー・シリーズでもチャンピオンを獲得した輝かしい経歴を持つ

現代のF1ドライバーに求められている能力の一つが「高い対応力」だ。マシンは常に進化する。今シーズンは全23戦。じっくりと待ってはくれない。現状、角田が乗るアルファタウリ・ホンダのマシンは間違いなく速い。チャンスがあれば表彰台も狙えるレベルだろう。それだけに、第2戦のミスをどう理解し、次に生かすのか。

 2011年のマスターズ・トーナメントでこれも日本人初となるベストアマチュアになった松山選手が世界のゴルフファンに抱かせた「彼はいつかメジャーに勝つかもしれない」という期待感。今シーズンの角田にもそんなレースを見せてくれることを願いたい。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

© 一般社団法人共同通信社