緩急自在の投球が魅力 オリックスの19歳左腕・宮城大弥

楽天を相手に8回2安打無失点で開幕2連勝を飾ったオリックス・宮城=楽天生命パーク

 推定年俸870万円。お買い得なエース候補生が注目を集めている。プロ野球オリックスの19歳左腕・宮城大弥だ。

 最速148キロの速球は、今の時代特筆するほどでもないが、90キロ台と100キロ台の緩いカーブを配し、さらに鋭く落ちるチェンジアップで打者を翻弄する。

 その投球術に、いつしかついたニックネームは「令和の山本昌」。かつて中日でシンカーやスクリューボールを駆使して、50歳まで活躍したレジェンド山本昌投手(本名・山本昌広)を思い出させるからだ。

 もっとも、元西武、オリックスで監督も務めた伊原春樹氏は違う見方をする。

 「山本昌以上でしょう。コントロールもいいし、クレバーな投手ですよ」。高校からプロ入りして2年目にしてこの評価。いわゆる玄人好みの逸材である。

 宮城の今季初先発は開幕カードとなった3月27日の西武戦だった。前日にエースの山本由伸で敗れて連敗は避けたい重要なゲーム。そんな重圧も感じさせずに、宮城は強打の西武打線を料理していく。

 最大の見せ場は四回。先頭に4番・山川穂高を迎えた場面だ。

 ストライク先行で追い込んでから、4球連続のファウルで粘られた9球目に114キロのカーブを投じると、山川は空振りした勢いで打席に崩れ落ちた。

 試合後の談話がこの若者の非凡さを物語っている。

 「スライダー要求だったが、狙われていると気づき、カーブに変えました」。投げる瞬間に球種を変えることも大変だが、とっさに危険を察知するあたりがすごい。

 7回を被安打5、自責点1の好投で初勝利を飾ると、新たな勲章も加わった。

 10代の開幕カード先発勝利は、チームでは前身である阪急時代の1957年、東映戦で米田哲也氏が勝って以来64年ぶりだ。

 米田氏といえば「ガソリンタンク」の異名を持つ無尽蔵のスタミナで通算350勝を記録した伝説のエース。宮城は続く4月4日の楽天戦で2勝目を挙げて、米田氏さえ成し遂げられなかった10代で開幕から連勝の球団記録を打ち立てた。

 高校生でも150キロのスピードボールを投げる時代。宮城の生命線は卓越した投球術にある。中でも目を見張るのは打者を幻惑する「時間差投法」だ。

 ピッチングの要諦は、いかに打者の狙いを外して、打者に気持ちよくスイングさせないかにある。そこで活用するのがスローカーブやチェンジアップといった遅球である。

 ど真ん中と思って打ちに行くと、まだボールが来ないのでタイミングを外される。

 緩いボールを意識しすぎると、今度は140キロ台のストレートが150キロ以上の効果を発揮する。加えてコントロールミスが少ないから好投の確率は高くなる。

 「いい投手ですよね。腕の振りが良くてあれで(ボールを)抜かれると、打者はタイミングがずれてしまう」とは西武の辻発彦監督の宮城評である。この若さで敵将も舌を巻く技術の持ち主はなかなかいない。

 「黄金世代」のトップランナーでもある。一昨年のドラフトは「10年に一人か二人の逸材」と評価された佐々木朗希(ロッテ)と奥川恭伸(ヤクルト)の超高校級右腕が注目を集めた。

 オリックスも佐々木を指名したが外れて、今度は強打の内野手・石川昂弥(中日)に方針転換したが駄目。外れ外れのドラフト1位が宮城だった。

 沖縄・興南高時代は甲子園の常連であり、佐々木らとともにU18日本代表にも選出されている。

 将来性ではライバルより評価は低かったが、実戦力では上回り、ルーキーの昨年11月の日本ハム戦で初白星をマーク、今季の先発ローテーション入りを果たした。

 チームは2年連続最下位。最後に優勝したのは1996年である。

 浮上の兆しがないわけではない。山本、山岡泰輔、田嶋大樹の各投手に宮城も加わった先発陣はリーグ屈指の陣容だ。

 問題は攻撃力。昨年の首位打者である吉田正尚以外に、得点源が見当たらない貧打が今季も続いている。

 当面は少ない得点を投手の踏ん張りでしのぐしかない。それでも、宮城が10勝近い勝利を挙げれば上位進出も見えてくる。

 阪神・佐藤輝明、楽天・早川隆久、DeNA・牧秀悟、広島・栗林良吏ら、今季は新人選手の活躍が目立っている。

 新人王の資格は宮城も有している。進化が止まらない19歳が、球界を代表するエースになる日は意外と近いかもしれない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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