レアンドロダミアンの絶妙なポストプレー 自ら点を取るだけでなく、仲間に取らせるうまさ

J1 FC東京―川崎 後半、競り合う川崎・レアンドロダミアン(左)とFC東京・岡崎=味スタ

 日本の11日早朝に行われた本家「クラシコ」。レアル・マドリードとバルセロナの試合は、ホームのレアルがバルセロナの猛攻を耐え忍んで2-1の勝利を収めた。

 スペインのみならず世界中の関心を集める伝統に彩られた大一番は1902年に始まった。対戦成績は、これでレアルの98勝52分け96敗。もし、今回、バルサが勝っていれば、ともに97勝の五分になっていた。世界を代表するメガクラブ。その両チームが実力でも伯仲している。だから「エル・クラシコ」はここまで盛り上がるのだろう。

 11日午後には「多摩川クラシコ」が行われた。J1第9節の川崎フロンターレとFC東京の対戦だ。久しぶりに味の素スタジアムの観客席に、1万7615人と大人数の観客を収容しての試合だった。しかし、ゴール裏の一角を除いて、ホームのサポーターが沈黙する時間が長かった。特に前半は、川崎の強さばかりが目立つ内容といえた。

 前半8分、早くも試合が動いた。川崎はジョアン・シミッチが縦パスを入れる。これをペナルティーエリア外正面でポストに入ったレアンドロダミアンが、反転して右サイドに浮き球のパス。ラインの裏に走り込んだ家長昭博がヘディングで合わせ先制した。さらに17分には、前線で奪ったボールを三笘薫が縦パス。再びペナルティーエリア前でポストに入ったダミアンが右サイドの展開、これを家長が左足ダイレクトで合わせ2点目を奪った。

 開始23分にも、ダミアンのポストプレーから三笘が3点目を決めたかに思われた。これはビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)でオフサイドとされて得点を取り消された。ゴールが認められていれば、勝敗は早々と決まっていただろう。

 同じ形でつくり出される川崎のチャンス。それは東京の守備のまずさというよりも、川崎のうまさだろう。特にポスト役を務めるダミアンのポジション取りが絶妙なのだ。

 シーズン前、川崎は名古屋グランパスからシミッチを獲得した。中盤の底でアンカーを務める、このシミッチの縦パスが、とても効果的なのだ。その鋭く速いボールを、相手最終ラインとボランチの中間のポジションに下がってきてダミアンが受ける。同時に両ウイング、家長と三笘が中に絞りながらDFラインの背後を狙う。この日のように相手のチェックがない状態でターンして前を向けば、元ブラジル代表がフリーでパスをミスすることなどほとんどないのだ。

 この日、最後まで興味深く見られたのは、後半14分にアダイウトンが1点を返し東京が1-2と詰め寄ったためだ。それでも川崎は後半16分に三笘、30分にダミアンが追加点を奪い、あっさりと試合を決めた。後半39分の内田宅哉の2-4とするゴールは、東京の今後に期待を抱かせるものであったが、川崎との力の差は明らかだった。

 2019年、ダミアンが日本に来た初年度、個人的には、いつまで日本にいるのだろうと思った。当初は交代出場も多く、ブラジル代表のプライドがそれに耐えられるのかと思ったからだ。同じく思い浮かんだのは元ブラジル代表のジョーだった。名古屋グランパスに移籍した初年度にJ1得点王に輝いたから、チームに馴染んでいるのだろうとばかり思っていた。それが、あっさりと名古屋を去って、日本についての不満を述べる記事を目にした。このクラスの選手は、扱いがかなり難しいのだろうなと勝手に思い込んでいた。いまとなっては、ダミアンに関しては、それも杞憂だった。

 「前線で活躍するのはすごく良いことだと思いますが、それ以上にチームの勝利が何より大事で、そのために前線で戦っている」

 東京戦の後、1ゴール2アシストの活躍について質問されると、ダミアンはこう答えていた。選手によっては「チームのために」と答えるように教育されている者もいる。だが、ダミアンの場合は本心なのだろうなと思える。それは、エースストライカーでありながら、前線からの献身的な守備を見ただけで分かる。

 今季は、11日の試合を終えた時点で既に7得点5アシストとチームの26得点の半数近くに絡んでいる。最前線で体を張って攻撃のポイントをつくり、自らゴールを陥れるだけでなく、味方にチャンスを与える。しかも、本来の攻撃だけでなく守備でも多大な貢献をする。まさにエゴを捨てたチームプレーヤーだ。Jリーグをステップに、さらに上を目指す外国籍選手にこういうタイプはいたが、すでに名声を得ている選手で、こういう存在はかなり珍しい。

 リーグ戦に限っての「多摩川クラシコ」で、川崎は18勝9分け10敗と、東京に水をあけた。その川崎の、現在の強さの原動力となっているのは、間違いなくダミアンだ。そういえば、この男はロンドン五輪の得点王だった。きっと五輪の年には、いつにも増して調子が良いのだろう。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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