『妄想する頭 思考する手』暦本純一著 型破りの発想法指南書

 世の中を変える技術や価値を生み出すにはどうすればいいか。本書はイノベーションを生み出す発想法の指南書だが、凡百のアイデア本とは一線を画す型破りのパワーを宿している。

 その発想法を乱暴に要約してみる。「やるべきこと」ではなく、「やりたいこと」をやれ。そのためには自分の妄想から出発しろ。真面目ではなく「非真面目」になれ。発明は誰も考えつかなかった必要を生む。ゆえに「発明は必要の母」だ。常識を覆す発明にはバランス感覚は邪魔だ。だからみんなではなく、一人で考えろ。思いついたら、すぐに形にしろ。失敗したら次のアイデアに移って打数を稼げ。人から理解されるアイデアはスケールが小さい。笑われるかキョトンとされるか、とにかく既成の価値観から外れよ――全編、かなりアクセルを吹かしている。

 著者の妄想の土台は「人間拡張」だ。すなわち超人、サイボーグ、超能力者のイメージ。コンピュータで制御される人工内耳や、電子マネー機能付きICチップの体内埋め込みなどは既に存在する。脳とインターネットの接続、その延長にある脳と脳の接続、さらに人類の脳がつながったネットワーク、人類全体が一体化した「超個体」の出現……著者の妄想は爆発的に広がっていく。

 アブない人? いや、100件以上の特許を有する著者は、スマホ画面で2本の指を動かすことで画面を拡大・縮小できる「スマートスキン」の発明で知られる世界的なイノベーターだ。それだけに説得力が半端ではない。

 妄想の源泉は、子どもの頃に入れ込んだSF作品や特撮テレビドラマ、オカルト本だという。実際に小学生の頃から「UFO発見装置」の製作や超能力実験など妄想の具現化を繰り返しているところが、もう普通ではない。今も研究室には『ドラえもん』全巻が参考図書として並んでいるという。

 オタク大国の日本は本来「妄想大国」でもあったはずだ。非真面目路線を進んで萎縮気味の日本を解き放て。本書のメッセージをそんなふうに受け取った。

(祥伝社 1600円+税)=片岡義博

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