<隠れた名盤>松崎しげる『愛のメモリー 35th Anniversary Edition』あの名曲を14のバージョンで

 今回は最終回なので、最後に2012年に筆者が企画した作品を紹介してみたい。松崎本人が現役であることが最大の販促となり、今でも年に千枚前後売れ続けている。なお、この35周年記念盤のジャケットは1977年のオリジナルと同じ構図に、2012年開業の東京スカイツリーが映りこんでいる(笑)。

 全14曲、記念作品発売の度に、あるいはレコード会社移籍の度に録音されてきた『愛のメモリー』のオンパレード。つまり、倒しても倒しても現れる無敵の怪獣のように、絶唱に次ぐ絶唱が堪能できるのだ。

 それでも、よりハスキーな歌声での高音シャウト版、ボサノバのリズムに合わせた鼻歌まじり版(これら2曲は亀田誠治プロデュースにて当時新録音)、チェコフィルと共演した荘厳アレンジ版、郷ひろみを意識したのか歌も演奏もギラギラのラテン版、90年代の鈴木雅之風に都会の夜を想起させるアダルトポップス版、80年代の軽やかなシンセサイザーに合わせた穏やかボーカル版、タメにタメまくった歌唱の2003年のLIVE版、そしてスペインでの音楽祭用に派手なアレンジに変貌したお馴染みの大ヒット版に、生まれ変わる前のアコースティックな『愛の微笑』と、実はそれぞれの年代を反映した演奏で、松崎もそれに順応している。ももいろクローバーZのLIVEで重大発表がある度に、本作の替え歌で登場する松崎なだけに、基本的に人を楽しませようとなりふり構わず頑張る人なんだとあらためて実感した。

 本作以降、荻野目洋子『ダンシング・ヒーロー』やTM NETWORK『Get Wild』など、バージョン違いを集めた企画作が次々とヒットし、この点でも本作の発売意義はあっただろう。たとえ嘲笑されても、笑顔で努力を継続すれば、結果としてバカにできないオリジナリティーにたどり着くことを松崎から教えられるはず。

(ハッツアンリミテッド・952円+税)=臼井孝

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