演劇界、権威ある賞候補に東葛スポーツ 『うっせぇわ』の何十倍か濃厚な

東葛スポーツが公演会場の導入路に貼り出したポスター、のようなもの=2020年12月、東京都足立区千住(※下部の一部にボカシ加工をしています)

 ▼「演劇界の芥川賞」といわれる第65回岸田國士戯曲賞の最終候補8作品に、ヒップホップ流儀の演劇ユニット「東葛スポーツ」(主宰・金山寿甲)の上演台本『A-(2)活動の継続・再開のための公演』が入り、たまげました。「ざまぁみろい」と誰に向かってか不明に叫んだ次第。東スポの公演は、役者は誰しもサングラス、時事ネタで風刺と皮肉を、ラップと寸劇、韻にまみれて吐き出すものです。ビルボードでトップに立ったあの曲『うっせぇわ』の何十倍か濃厚。ですが「やだー、意外と飲みやすくない?」「ね、後味がね、意外とすっきりー」みたいなこともあったりなかったり。こういうスタイルも候補にするとは、岸田賞は意外とイカしてる、いやむしろ、岸田賞側が東スポにディスられたがっているのか、どうだっていいぜ問題はナシ。

▼岸田賞候補になった台本をやったステージは2020年12月10~14日、東京・北千住はシアター1010の稽古場1。冒頭ネタは「ミヤシタパーク」。かつて渋谷区による多数のホームレス排除が物議を醸し、再開発で昨年、公園と商業施設とホテルになった場所。そこに入居したある高級ファッションブランドが世に放ってきた高邁なメッセージや、デザイン理念を、東葛はなんちゃってファッションショーとラップでメッタメタにご紹介。ブハブハ噴かされ、今回も快調な滑り出しだと浮かれて見ていると、突如、曲がストップ。「みたいなの、やろうと思ってたんですよ。最初は」とサングラスと枯れ声で東スポのディーバ、川崎麻里子。あそこはどうしようもない、語ることすらもないからやめたと言う。「資本社会と公園の公共との何とか、みたいな。岸田に引っかかりそうなテーマですけどね」と笑わせつつ、やっぱり今は、2020年に起きてしまった特殊な状況に触れる。「本当に大変でした今年は、、ヤクルトがぶっちぎりの最下位で、、なんてね、そんな照れ隠しは致しません今日ばかりは・・・」

▼『A-(2)活動の継続・再開のための公演』のタイトルは、文化庁の助成金制度の項目名そのまま。東スポは、「不要不急」の風吹きすさぶ中の役者の現状、窮状を、憲法25条、自嘲も絡めて寸劇とラップに。あとは「『お帰り』寅さん」、ウーバーイーツに「パラサイト」、ごちゃまぜにしてブスブス刺して笑わせて、最後は、それぞれが役者・芸人魂を露出させる、いつになくエモエモしい、ちょいと熱くさせるラップ・・・。この1年、自分にとって価値のあるものないものがはっきりさせられてきました。やはり、7万円のタダ飯タダ酒より、牛丼小盛と卵と味噌汁、といいますか、この先、なくてはならないもの、それがわたくしの場合、東葛スポーツだと気づかされ、照れるような、ざまぁみろなような・・・。(敬称略)

(宮崎晃の『瀕死に効くエンタメ』第146回おしまい=共同通信記者)

★『A-(2)活動の継続・再開のための公演』・・・【構成/演出】金山寿甲、【出演】森本華(ロロ)、川崎麻里子(ナカゴー)、名古屋愛(青年団/青春五月党)、塚本直毅(ラブレターズ)、安田啓人、神谷圭介(テニスコート)

★岸田賞最終候補8作のテキストは、3月13日まで岸田賞公式サイトで期間限定公開

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