『ひとりでしにたい(1)(2)』カレー沢薫著、ドネリー美咲・協力 目をそらしてきた未来を見つめる

 書評を書くとき、本を閉じたらまずパソコンに向かう。が、本書に限っては、とりあえず寝た。小一時間ほど寝た。なんでってそら、向き合いたくない現実と後回しにしてきた計画がてんこ盛りに盛られているからだってばよ。

 漫画家であり最近ではエッセーも人気のカレー沢薫。一部でメシアと呼ばれる彼女の新刊は、「孤独死」がテーマの漫画だ。35歳の学芸員・山口鳴海は、ある日両親から、伯母が誰にも看取られず最期を迎えた結果、「黒い汁」になっていたことを告げられる。かつてはバリバリのキャリアウーマンで、いつもきれいでいい香りのしていた伯母。子どもの頃に憧れていた伯母が、一体何故そんな最期を迎えたのか。鳴海は、同僚の那須田(24歳男性、官庁から出向中のエリート)に扇動されながら、よりよく死ぬにはどうしたらいいか、考え動き始める。

 生涯独身だった伯母の最期を知り、「婚活する!」と突然決心する鳴海に那須田は突然話しかける。「結婚すれば将来安心って昭和の発想でしょ?」、なのに「どうやったら『結婚すれば安心』って思えたのか、メチャメチャ気になるんで教えてもらえますか」と。「……『何も考えてこなかったから』ですね」と結論づけた彼に煽られる形で、鳴海はひとりで生きてひとりで死ぬことを決意する。

 そう心に決めて試行錯誤するも、弟家族と仲良くしておけば、という下心で義妹に無神経な連絡をして弟に叱られたり、同窓会で再会したファイナンシャルプランナーだという怪しい同級生に連絡を取り、無駄な不安を掻き立てられたり……。迷走気味の鳴海を那須田はそっとつけまわしては助言を繰り返す。

 「『大丈夫』は孤独死の始まり」、「孤独死する人たちは希望、つまり生きる意欲を失っている人が多いんです。(略)『希望』への『投資』を一番ケチっちゃダメですよ」、孤独死をした場合、最悪甥や姪にまで迷惑がかかる可能性がある、「『親の老後や死』から目をそらしているうちは……とても『自分の老後に向き合っている』とは言えない」、裕福な家庭に育った結果、「危機感パラメータゼロの女」が完成した。「危機感がないからどんな危機を見ても当事者意識が持てない」。その結果、情報や意識がアップデートされない……。

 何も考えずに、向き合わずに、親の死も自分の老後も遠い遠い未来のお話だと思っていた自分に、突き刺さるような物語。誰にも文句を言わせずに私の人生を謳歌するには、自分がいかに死ぬかを考え準備することだと本書は語る。「誰にも悲しまれない、思い出されない。それもきっと『孤独死』」……。いかに死ぬかはつまり、いかに生きるかだと教えてくれる一冊だ。不貞寝をしている場合じゃない。

(講談社 1巻:640円+税 2巻:650円+税)=アリー・マントワネット

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