「DVD=2」NHKDVD『よみがえる美空ひばり』最新技術とリアルデータの融合で世に送り出した、“歌姫”の新曲と語り

 もう没後30年も経つんだ……時の流れの速さに驚くとともに、この挑戦に至った背景を知りたいと画面に釘付けになった。2019年の紅白歌合戦で大きな話題をさらった、「AI美空ひばり」による新曲披露。本作は、そこに至るまでの長き道のりを丁寧に記録したドキュメンタリーだ。

 AIプログラミング、CGデザイン、3D立体投影。「ボーカロイド」を開発したヤマハ歌声合成チームも参加するなど最新鋭の技術が惜しみなく投入される一方で、子・加藤和也が保管していた生前の肉声、さらには美空ひばりを慕ってやまない歌手・天童よしみも歌唱時の動作を再現するメンバーとして参加。デジタル・アナログの双方から、亡き人の再具現化にじわじわと迫っていく。

 個人的に最も興味深かったのは、リアルな歌声を探求するなかで見つかった一つの“秘技”。美空ひばりの歌声のなかには要所要所で、通常の歌謡曲の歌唱法にはない、7000ヘルツを超える「高次倍音」が混ぜられていたというのだ。没後30年の時を経て、誰も知らなかったあの歌声の秘密に出合う。それはこのプロジェクトの大きな成果の一つであったのではないか。

 それにつけても、である。このプロジェクトがなぜ行われたのか、そもそもの確たる理由は最後まで明らかにされてはいなかった。ナレーションや関係者インタビューでも何度も、「危うさもある」との言葉が但し書きのように繰り返されていたが……。完成した作品のお披露目コンサートで2回、同じ楽曲、同じ動きが上映されたあとの静けさに、なにか答えのようなものが凝縮されているように感じた。

(NHKエンタープライズ・4000円+税)=玉木美企子

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