『転がる姉弟(1)』森つぶみ著 いろんな味の物語

 両親の再婚により、血の繋がらないお姉ちゃんと弟がひとつ屋根の下で暮らす漫画……。こら絶対ラブ始まるわ、っておねショタ脳のみなさんだったら思うじゃないですか。違うんですよ、この漫画は「思ってたんと違う」から始まり、その後も「思ってたんと違う」が連発のホームコメディーなんですよ。

 主人公のみなとは高校1年生。幼い頃に母を亡くし父子家庭で育ったが、父の再婚が決まり新しい家族と暮らすことになった。再婚相手のミツコさんには小学2年生の息子・光志郎がおり、つまりみなとはお姉ちゃんになる。ミツコさんに目元がよく似ているという光志郎は、じゃあきっと垂れ目で優しい感じの美少年。ひょっとしたら生意気盛りかもしれないが、「それでもカワイイ!!たまらん!!」と(想像で)悶絶するみなと。

 しかし翌日彼女の前に現れたのは、鼻水ターラタラの「なんてゆうかすごいアホそうな子」だった。期待はずれはお互い様で、互いにテンションだだ下がりの初めましてだったが、家族としてひとつ屋根の下で暮らす日々が始まる。

 みなとは、夕食のときに弟の好きなテレビ番組に付き合わされること、お年玉とお小遣いで買った「私の」ゲーム機を父が光志郎に差し出すこと、そして何よりお母さんが二人になったことに苛立ちや戸惑いを隠せない。その一方で光志郎も、新しい大きな家、知らない人みたいな顔で寝る「母ちゃん」に不安を覚え、夜中にリビングでひとり、膝を抱えて泣いていた。それに気づいたみなとは、ホットミルクを作って差し出す。かつて同じように眠れない夜、みなとの母が作って飲ませてくれたように。

 物語には、期待通りや思惑通りにいかないことがたくさん出てくる。些細な姉弟げんか、「ひみつへいき」がウケない転校先。うまく行かないのは二人だけではなく、うまく話すことができない「ロボ」や、母親の彼氏とその子どもに会いたくないと家出を企てる久瀬……それぞれが鬱屈した気持ちを抱えている。

 そんな行き場のない苦しみに、誰かが小さな風穴を開けてくれる。そんな思いがけない瞬間を捉えているのが印象的だった。その風穴は誰かの優しさだったりすることもあれば、ただ楽しく暮らすその姿に背中を押してもらうことだってある。

 「思ってたんと違う」展開にガッカリすることもあるけど、突然の贈り物が届いた朝のような、驚きと喜びがないまぜになった感情に頬を紅潮させることだってある。人と人とが繋がりながら生きることの豊かさを描いた、いろんな味がする物語だ。

(ヒーローズ 650円+税)=アリー・マントワネット

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