F1ではホンダ、WRCではトヨタの躍動に期待 モータースポーツが本格始動

WRC開幕戦のラリー・モンテカルロでトヨタは1位と2位に入った(C)TOYOTA GAZOO Racing

 視界良好―。この言葉は読者の皆さんもよく目にするだろう。正確な意味が気になったので、辞書で調べてみた。すると「視界良好な」と使う場合は「障害物などなくよく見える」ことであり、「視界良好となる」だと「それまでより遠くのものがハッキリと見える」こととある。

 モータースポーツの世界で「視界良好となる」タイミングはいつだろう。F1ならば開幕戦の予選ではないか。今季のスケジュールで唯一未定だった5月第1週の開催地がポルトガルに決定した。このことで今シーズンは史上最多となる全23戦を実施することが確定した。

 開幕戦は3月28日に決勝を行うバーレーン・グランプリ(GP)。シーズン前テストは3月12日から14日までの3日間、同じバーレーンで予定している。F1ではコスト削減に対応する形で、年々テスト期間が短くなっている。2019年は8日間、20年は6日間のシーズン前テストが許されていた。このことと比較すると、3日間はやはり短い。

 しかも、テストでは1台のマシンを2人のドライバーがシェアする。そうなると、今年のシーズン前テストは多岐にわたるチェックリストを消化するだけで終わってしまうのではないかと予想できる。

 当然、各チームのマシンが持つ潜在能力を比較できるはずもない。実際の実力が分かるのはバーレーンGPの予選が開かれる3月27日となる。ここで初めて今シーズン全体を見据えた速さの相関図が「視界良好となる」だろう。7年ぶりの日本人フル参戦ドライバーとして登場する角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)の実力もこの予選である程度、知ることが出来るはずだ。

 そんなF1とは違い、一足先に「視界良好」となったカテゴリーがある。ラリー・モンテカルロ(1月21日~24日開催)で開幕した世界ラリー選手権(WRC)だ。最上位クラスは「トヨタ」「ヒュンダイ」に加え、フォードのマシンを使用する「Mスポーツ」が争う構図となっている。

 今シーズンは全12戦を予定しており、最終戦はラリー・ジャパン(11月11日~14日開催予定)である。昨季は、トヨタのセバスチャン・オジェが年間総合王者に輝いた。これでトヨタは2017年のWRC復帰以後、18年には製造者部門のタイトルを獲得した。19年にはオット・タナックが年間総合王者になっている。十分すぎるほどだが、「完全勝利」と呼べるダブルタイトルはまだ獲得できていない。今季目指すのは、1993年、1994年以来となる3度目のダブルタイトル獲得だ。

 シーズンの行方を占う開幕戦でトヨタはセバスチャン・オジェが優勝。2位にはエルフィン・エバンスが入った。絶好のスタートを切ったと言って良いだろう。ちなみに開幕戦ラリー・モンテカルロでの勝利は98年以来となる。

 今季トヨタが開発した「ヤリスWRC」は昨年1年間、セバスチャン・オジェが実戦とテストを重ねたことで、元々の潜在能力が十分に引き出されている。さらに、ドライバーにとっては扱いやすくなっているなど、過去最高レベルの競争力を備えている。まさにダブルタイトルに向けて「視界良好な」発進をしたと言える。

 F1におけるホンダの挑戦は今季が最終年となる。角田裕毅の挑戦も含め、F1とWRC、両方で日本勢が「視界良好な」シーズンを戦ってくれることを期待したい。(モータースポーツジャーナリスト・田口浩次)

© 一般社団法人共同通信社