『夏時間』扉を使って映画的空間を構築

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 昨年、韓国映画では『パラサイト 半地下の家族』に次いで話題となった『はちどり』同様に、新人女性監督が10代の少女の視点から家族を描いている。どちらも思春期特有の揺れ動く心情をヴィヴィッドにすくい取っているが、印象はかなり異なる。本作の場合はむしろ古典的で、台湾のホウ・シャオシェンの遺伝子を感じさせる。

 父親が事業に失敗したため、弟と3人で祖父が一人で住む庭付きの古い一軒家に引っ越す。そこに、結婚しているはずの叔母も居着き…。少女のひと夏を描いているが、『冬冬の夏休み』のように都会の子供が田舎を体験する話ではない。甘酸っぱさもほどほど。父親、叔母、不在の母親…大人の事情を垣間見るところに主軸があるのだ。

 その際に重要な役割を担うのが“家”。この1990年生まれの若い監督には、『はちどり』のキム・ボラのような強い個性はないけれど、映画を映画にする術を心得ている。とりわけ上手いのが、扉の使い方。ファーストカット(この家に着く前)から扉の演出が駆使され、子供たちを巧妙に動かして、あくまでもストーリーに則した中で映画的な空間を構築していく。コロコロと変わる子供の目線の高さや階段…何とこの家の階段には、途中に扉があるのだ! 不在ゆえに存在感を増していた母親の登場のさせ方も見事という他なく、みずみずしさを保ちながら、細部まで新人離れした説得力を放つ。★★★★★(外山真也)

監督・脚本:ユン・ダンビ

出演:チェ・ジョンウン、パク・スンジュン、ヤン・フンジュ、パク・ヒョニョン

2月27日(土)から全国順次公開

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