日本一奪回の切り札となるか 巨人、桑田真澄氏がコーチ就任

巨人の投手チーフコーチ補佐への就任が決まり、原監督(左)とタッチを交わす桑田真澄氏=12日(球団提供)

 今年のプロ野球界は、巨人が話題を独占して幕を開けた。

 一つはエース菅野智之の去就。昨オフ、ポスティングシステムでのメジャーリーグ(MLB)挑戦を表明して獲得合戦が繰り広げられていたが、新型コロナウイルスの感染拡大でMLB各球団の動きが鈍く、条件面で折り合うことなく一転巨人残留が決まった。

 それから数日後の1月12日に発表されたのが“レジェンド”桑田真澄氏のコーチ就任だった。

 既に今季のコーチングスタッフは発表済みだったが、新年早々に原辰徳監督から直々に要請を受けて15年ぶりの古巣復帰となった。

 そのキャリアは輝かしい。PL学園高時代は1年時からエースとして活躍。清原和博氏との「KKコンビ」は甲子園の申し子と称された。

 巨人入団後も早くから頭角を現し、プロ通算173勝の実績を残している。

 退団後の2007年にはMLBにも挑戦。勝ち星こそ記録できなかったが、ブルペンでの多彩な変化球を見て若手投手が手本にしたいと集まった。

 その後も早稲田大の大学院でスポーツ科学を学び、13年からは東大野球部を指導するなど、異色の活動が注目を集めた。

 一方で、退団直後から巨人のユニホームを再び着ることは難しいとも言われてきた。

 現役時代、義兄の不動産問題で多額の負債を抱え、一部を球団に肩代わりしてもらった時期があったからだ。

 当時の読売新聞社トップである渡辺恒雄氏(現同社主筆)の逆鱗に触れ、古巣復帰は絶望とする説も流れたのだ。

 今回のコーチ就任も急転直下の感は否めない。原監督が早くから構想していたとしたら、12月のコーチングスタッフ発表に間に合っていたはずだ。

 同監督は年末に山口寿一オーナーとの面談の席で了承を得て、1月に入ってから桑田氏の承諾を取り付けたと明かしている。

 「OBで野球人として非常に魅力がある人がユニホームを着られる環境にあった。いい環境の中で、彼を誘うことができる環境が整った」と原監督は語ったが、まさに鶴の一声。それだけ原全権監督の力が球団内で強くなっているという証しだろう。

 キャリア、人気、話題性を兼ね備える大物コーチ誕生には、早くも外野からさまざまな声が飛び交っている。最大の興味はその立ち位置だ。

 肩書は1軍の投手チーフコーチ補佐。今季は宮本和知チーフコーチと杉内俊哉投手コーチとの3人制で、立場上は真ん中に位置する。

 宮本コーチはムードメーカーとして投手陣とベンチとの潤滑油的存在だったが、桑田新コーチは理論派として定評がある。

 従来の野球界で当たり前とされてきた練習法に関して「分からなかったことが、スポーツ科学の発展で解明されてきた。そうした部分は活用していきたい」と持論を語る。

 その一方で、現役時代は人一倍の努力を惜しまなかった練習の虫でもある。

 今でも2軍が主に使うジャイアンツ球場には「桑田ロード」と呼ばれる練習跡がある。外野をランニングした際に、芝がはげ落ちた部分だ。そんな新コーチが、早速提唱したのが「投手完投論」である。

 小学生から高校生までの過度の投げ込みには警鐘を鳴らす桑田氏だが、体の出来上がったプロになると話は別だという。

 「中4日が主流のメジャーと違って中6、7日の休養を挟む日本なら、もっと完投を目指すべき」と、肩のスタミナ作りを推奨する。

 チームには戸郷翔征、畠世周、高橋優貴ら若手の先発投手候補が多い。彼らをどうたくましく育て上げていくのか。

 だが、桑田流ばかりが目立っても宮本チーフの立場がない。このあたりが難しい。

 さらに、大物コーチの誕生は「ポスト原問題」にも波紋を広げている。

 次期監督には阿部慎之助2軍監督が有力視されている。そこへ、現役時代の実績では引けをとらない桑田氏が“入閣”したことで、周囲はにわかに騒がしくなってきた。

 巨人の監督はこれまでエースか4番打者が務めてきた。二人ともその意味では有資格者だが、その指導法は対照的だ。

 阿部2軍監督が、ふがいない戦いの後に罰走を命じる「鬼軍曹タイプ」なのに対して、桑田コーチは理詰めのタイプ。ある評論家は「(次期監督最有力の声に浮かれている)阿部をけん制する意味もあって桑田を呼んだのでは」という見方をしている。

 とにもかくにも、今年のキャンプの目玉は桑田新コーチであることは間違いない。

 この2年、リーグ優勝はしてもソフトバンクに惨敗し、日本一の道を阻まれてきた。球界の盟主の座が危ぶまれ、人気面でも不安を抱える巨人にあって、桑田氏の加入は起爆剤になりそうだ。

 そんな“桑田狂想曲”を最も喜んでいるのは、チームであり原監督なのかもしれない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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