『焼いてるふたり(1)』ハナツカシオリ著 このご時世に助かるエンタメ

 マッチングアプリで出会い、交際ゼロ日婚(しかも遠距離)、休みの日にはBBQ。令和のあるといいなをまるっとぶち込み煮詰めたような、奇跡のファンタジーマンガが今ここで産声をあげました。おめでとうございます、元気な夢物語ですよ。

 主人公は30歳のエンジニア、福山健太。結婚したくないわけじゃないけど出会いがないという、キングオブつまらん動機でマッチングアプリを利用している。連敗続きで諦めかけていたとき、彼は運命の美女、山口千尋と出会うのだった。

 ストーリーの前半は急展開が続きまくる。出会う→肉食う→その後も時々食事する→健太に浜松転勤の話→健太「もう会えない」→千尋「じゃあ結婚しましょう」←!!?!!!??

 千尋の提案に健太は驚きを隠せないわけですが、それ以上に驚いてるの読者だってばと声を大にして言いたい。えっ、どこで結婚したいと思ったの!

 それにこの流れ、千尋がかなりのクールビューティーかつパイオツカイデーかつ健太も乗り気であるから成り立つわけで、どアベレージな女子が相手の温度を測り間違えて行動に移した日には大怪我どころか痴女認定されること請け合い。

 そんな急転直下、怒涛のプロポーズを経て交際ゼロ日での遠距離婚が始まるわけですが、それはそれは、初々しく微笑ましい。千尋は、昭和の嫁かってくらいの奥ゆかしさだが、平日は東京でバリバリ働くデザイナー。なかなか感情を表に出さない彼女の、内に秘めている苦悩や心情が徐々に明かされることに期待したい。

 一方の健太は、のび太みたいなツラしてるけど、こう見えてなかなかのハイスペ男子と思われる。仕事の話を一切家庭に持ち込まないし、

 転勤先では光の速さで馴染んでる(早々に同僚と釣りとか行ってるし)。コミュ力高め、ストレス耐性高め、感情のコントロールに長けた人物ではないか。しかも休日には家の庭先でBBQするという、料理上手であり体力無尽蔵(寝てたくないのか)。

 ……というおとぎの国のお話みたいだけど、殺伐としたこのご時世、気楽に読むにはもってこいののほほんラブストーリーだ。それに登場するアウトドア料理の数々はどれも簡単で美味しそうなのも魅力的。キッチンでも作れるレシピなので早速作ってみたくなる。ページをめくって心を軽くして、本を閉じたら晩ごはんのレシピというおまけが付いてくるなんて、けっこう助かるエンターテイメントではないか。

(講談社 640円+税)=アリー・マントワネット

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