『鬼の子(1)(2)』ながしまひろみ作 青空に弧を描くホームラン

 鬼と言えば滅、鬼を滅すると書いて鬼滅。って二文字をあちこちで目にした2020年でしたが、ご存じですか?実はこんな鬼の漫画も発売されていたんです。

 作者はながしまひろみさん。2016年から始まった「ほぼ日刊イトイ新聞」での連載漫画「やさしく、つよく、おもしろく。」で脚光を浴び、あれよあれよと本作が三冊目だそう。

 コンテンツ配信サイト「cakes」での連載を単行本化した本書。物語は、グラビア女優のお母さんと中学2年のみのるが暮らす家に、ある日突然「鬼の子」がやって来るところから始まる。

 家出してきたという鬼の子は、「オニくん」としてこの家で暮らすことに。みのるに野球を教えてもらったり、小学校に通いはじめたり、入学早々にツノの存在がバレてクラスメイトにドン引きされたり、そんなクラスメイトと野球チームを作ったり、夏祭りの夜に花火を見たり、みのるのお父さんを探したり……。優しい心をもつオニくんは、傷付いたり傷付けてしまったりしながらも、一人また一人と、大好きな人を増やしていく。

 物語の中で大きなテーマとして描かれているのが、父親の存在。オニくんの父親は当然、鬼であり、鬼だから当然、人間たちに忌み嫌われており、ゆえに人里離れた場所で暮らしていた。そのさみしさから抜け出したい、みんなで力を合わせて生きてみたい、そしてオニくんは家出を決行する。友達もたくさんできて楽しい毎日を送る中で、しかしオニくんはある出来事をきっかけに、突如不安に駆られてしまうのだ。「ぼく、やっぱり鬼だから、いじわるなこころが、あるのかな」「ほんとうは、とてもおそろしいこころが」「ぼくのおとうさんみたいに」と。

 そんなオニくんが、優しさと勇気をもって、みんなで力を合わせて野球の試合をする。笑ったり泣いたり、仲間を励ましたりしながら、お父さんとは違う道を、自分の意志で切り開いていく。鬼として生まれた自分を、肯定しながら。

 私は、私として生まれた力強さをまるごともったまま、私の望む通りに生きていくことができる……葛藤を繰り返したオニくんが辿り着いた確信のような、決意のような感情は、青空に弧を描くホームランのようだ。

(小学館 各1500円+税)=アリー・マントワネット

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