『ストレイ・ドッグ』ニコール・キッドマンがぶち壊した美しき女優像

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 ニコール・キッドマンが初めて刑事役に挑戦し、ゴールデングローブ賞をはじめ国内外で大絶賛された映画です。原題は『Destroyer』、日本語で「破壊者」という名の通り、映画冒頭から登場するニコールはかつて『ムーラン・ルージュ』などの代表作で見せた美しく華やかな姿からは全くかけ離れた、ズタボロのまさに「壊れた」状態です。

 17年前、犯罪組織への潜入捜査で取り返しのつかない過ちを犯したことが原因で、アルコールに溺れ、荒み切った生活を送るヒロイン。潜入捜査をしていたときと現在の彼女の姿を対比しながらストーリーが進んでいきます。

 映画『デブラ・ウィンガーを探して』という2002年に公開されたドキュメンタリーがあるのですが、その映画は『グラン・ブルー』などで知られるロザンナ・アークエットという女優さんが20代で輝いた女優たちのその後を追った作品です。作中の「ハリウッドでは女優の活躍する層が若くなっていく。40代をすぎるとどんどん外野に追いやられて、美を追求するハリウッドの規格から外れることになる」という話を思い出しました。現在53歳のニコールは美しさや華やかさを捨てて、特殊メイクを施し、自らイメージをぶっ壊して酒浸りの女性を演じました。今なお映画業界には少ない女性監督の1人であるカリン・クサマの描き出す女性版ノワールは、女性同士の暴力シーンも容赦無し! 男性を殴り、殴られ、これまでの男性主人公の映画での描写に臆することなく挑戦した本作は、若くなければ価値がない、細く美しくなければいけない、男性監督やプロデューサーのいうことを聞き、彼らが作り出した理想的な女性像を演じるというハリウッドの男社会そのものへの挑戦にも感じられました。★★★★☆(森田真帆)

10月23日から全国順次公開

監督:カリン・クサマ

出演:ニコール・キッドマン、トビー・ケベル

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