ヤンキースとの7年契約終了 注目される田中将大の去就

レイズ戦の5回途中、ブーン監督(左)に交代を告げられるヤンキース・田中=サンディエゴ(共同)

 日本球界より一足早く、メジャーリーグ(MLB)のポストシーズンが大詰めを迎えている。

 今年のMLBは、日本同様にコロナ禍により7月下旬に開幕してペナントレースは60試合という異例の短期戦だ。

 10月早々から始まったワイルドカードシリーズにはア、ナ各リーグから8チームずつ、計16チームが進出した。これも通常より多い出場チーム数である。

 勝ち残ったチームは次に地区シリーズ、リーグ優勝決定シリーズと戦い、日本時間の10月21日からのワールドシリーズに臨み「世界一」が決定する。

 無観客試合が続き大きな収益が望めない公式戦より、莫大な放映権収入が手に入るポストシーズンを優先するあたりが、いかにも米国らしい。

 このポストシーズンにはダルビッシュ有(カブス)田中将大(ヤンキース)ら日本人メジャーリーガーも6人が駒を進めた。

 しかし、前田健太(ツインズ)秋山翔吾(レッズ)山口俊(ブルージェイズ)らも含めた5球団は早々に敗退、15日時点で残っているのは筒香嘉智のいるレイズだけだ。いかに世界一への道のりが険しいかがわかる。

 今季の日本人プレーヤーは、明暗がはっきりと分かれた。

 多くの称賛を浴びたのはダルビッシュと前田の両投手。8勝をマークしたダルビッシュはナ・リーグの最多勝を確定。防御率(同2位)奪三振(同4位)とレベルの高い投球で最優秀投手に与えられる「サイヤング賞」の有力候補に挙げられている。

 ドジャースからツインズに移籍した前田も成功組。6勝1敗の成績だけでなく、どの試合も大崩れすることなくチーム内の信頼を勝ち取って、今やエース格の評価を手に入れた。

 一方で散々なシーズンとなったのは大谷翔平(エンゼルス)だ。

 右肘の手術を経て「二刀流」の完全復活が期待されたが、投手としての出場は2試合のみ。全盛期の160キロ超の剛速球は戻らず、打者としても1割台の低率しか残せなかった。

 筒香、秋山、山口らの「ルーキー組」はMLBの厚い壁に苦しんだ。まだまだレギュラー定着とはいかず、来季に期待したい。

 そんな中で今、ニューヨークのファンの注目を集めているのが田中の去就だ。

 開幕直前、打撃投手を務めた際に打球を頭部に受けるアクシデントもあって調整が遅れた。

 その後も調子は上がらずレギュラーシーズンは3勝3敗の不本意な成績だった。しかも、今まで抜群の勝負強さを発揮してきたポストシーズンでも、2試合とも早々の降板となった。

 今季がヤンキースとの7年契約の最終年、来季もピンストライプのユニホームでプレーできるのか、それとも他球団と契約を結ぶのか。田中自身にとって野球人生の大きな岐路を迎えている。

 東北楽天からポスティングシステムでヤンキースに入団したのが2014年。7年契約の総額は日本円で約164億円(推定)とされた。

 初年度から13勝(5敗)をマーク。以来昨年までの6シーズンすべてで二桁勝利を挙げ、先発ローテーションを守り続けてきた。

 実績だけを見れば、誰もが残留間違いなしと言いたいところだが、地元では必ずしもそうとは言えない情報も流れている。

 まず、MLBの「盟主」と位置づけられる名門球団が、11年連続でリーグ優勝を逃しているため、チームの抜本的な改革が必要とされること。

 さらに今年のコロナ禍で球団の収支構造が悪化、いくら「金持ち球団」とはいえ、大型契約には二の足を踏むだろうという推測だ。

 強い時は熱狂するが、負けがこむとブーイングに変わるのはニューヨークっ子の特徴だ。

 来年32歳を迎える年齢を引き合いに「田中の全盛期は過ぎた」と指摘するマスコミもある。

 初のフリーエージェント(FA)権を手にする田中に対して球団の選択肢は二つ。移籍を認めるか、残留交渉を行うかだ。

 そこで現在、担当記者たちが大きな関心を寄せているのが「クオリファイング・オファー」(QO)という制度だ。

 これはFAとなる選手に単年契約での残留を要請できるシステム。ワールドシリーズが終了した翌日から5日間が、今季所属球団の独占交渉期間でQOの提示期間ともなる。

 これを拒否した場合は他球団との交渉に移る。

 「(このチームに)愛着がないわけがない。選手として、人間として言い表せないくらいのたくさんの物を学ばせてもらった」。今季終了時点で田中はこう語っている。

 チームにとっても、絶対的な先発要員は見当たらない。こうした両者の思惑もあって、現時点で地元マスコミが有力視するのがQOを使った単年契約である。

 その場合、田中の今季年俸2300万ドル(約24億円)より5、6億円の減額となるが、果たして結果はどんな形で落ち着くか。

 米大統領選の結果が判明する11月上旬がこちらもヤマ場と見られる。

 果たして「ノベンバー・サプライズ」はあるのか。田中の動向から、目が離せない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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