『ミッドナイトスワン』草なぎ剛が自身最高の演技でみせるトランスジェンダーの苦悩

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 映画『下衆の愛』や『獣道』を手がけた内田英治監督が、東京に住むトランスジェンダーの生き様を描いた作品です。ネグレクト気味の母親から逃げるようにやってきた親戚の少女との絆を軸に、女性性への強い憧れや、男性としての肉体を持ったことへの違和。女性として当たり前の生活すらできず、トランスジェンダーの女性が夜の世界でしか働けない現実や、ホルモン注射を続ける辛さ、LGBTQへの口先だけの理解と根強い差別など、これまで日本社会全体が見ないようにしている現実の問題に真正面から切り込んでいます。

 ヒロインの凪沙を演じるのは、草なぎ剛。観客は今まで見て来た草なぎ剛とは全く違う、凪沙という女性を目にします。少ない台詞でも、凪沙の優しく、悲しい心情は本当に切ない。これはふとした時の目線、繊細な表情や動きという草なぎの芝居のテクニックはもちろん、一つ一つの挙動にこれまで彼自身が積み重ねて来た豊かな人生で感じてきたであろう悲哀が重なっているかのように伝わってきました。私は映画が始まってすぐ、人々の目から逃れるように伏し目がちに猫背で歩く彼女の姿を見た瞬間に涙が溢れて仕方がなかった。

 新人の服部樹咲の瑞々しさに始まり、自堕落な母親を演じる水川あさみや、ショーパブのママ役の田口トモロヲなどのキャスティングも絶妙だが、注目したいのは若手俳優の田中俊介。繊細な心を持っているが故に男に利用され、傷つき堕ちていく凪沙の同僚を熱演しています。ラストを迎えた後、私の心にはたくさんの想いが込み上げてきました。この思いをどのように感じるか、それをどう未来に繋げていくかを考えてもらえると嬉しいです。)★★★★★(森田真帆)

9月25日(金)から全国公開

企画・脚本・監督・原作:内田英治

出演:草なぎ剛、服部樹咲、田中俊介

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