3階級制覇の「激闘王」が引退 全力を振り絞った八重樫東

モルティ・ムザラネに敗れ、大橋会長(右)と言葉を交わしながら引き揚げる八重樫東=2019年12月23日、横浜アリーナ

 ボクシングで世界3階級制覇を達成した八重樫東(大橋)が9月1日、現役引退を発表した。

 本人は「体力の限界は感じていないが、(闘う)チャンスがないので仕方ない。悔いはありません」と語り、大橋秀行会長からの引退勧告に従ったという。

 振り返れば15年以上に及ぶボクサー人生は波乱に富んでいた。

 世界戦では常に全力投球。強豪との対戦を避けることもなく、負けも目立った。全力を振り絞ったボクサーが、完全燃焼してリングを去っていく。

 岩手県出身。拓大を卒業後、2005年3月、1回KO勝ちでプロデビューした。

 日本、東洋太平洋ミニマム級王座を獲得した後、11年10月、10回TKO勝ちで世界ボクシング協会(WBA)ミニマム級王座を獲得した。

 12年6月、大一番が実現する。世界ボクシング評議会(WBC)同級王者、井岡一翔(Ambition)との王座統一戦だ。

 序盤から激しい打撃戦となり、惜しくも小差の判定で敗れた。目を腫らしながらも最後まで戦い抜く姿に、温かい拍手が送られた。

 ここから八重樫は不屈の精神で立ち直る。どれだけ打たれても必ず反撃。すさまじいファイトは「激闘王」と呼ばれるようになった。

 13年4月、五十嵐俊幸(帝拳)を判定で破り、WBCフライ級王座を奪取。そして、14年9月、4度目の防衛戦に最大の強敵を迎えた。当時「軽量級最強」と評価されていたローマン・ゴンサレス(ニカラグア)である。

 予想は厳しかった。ゴンサレスの実力は本物で、中盤からはペースを握られた。結局、9回TKO負けでタイトルを失うが、相手の強打に立ち向かう勇気には驚かされた。

 後退することはなく、ゴンサレスにクリーンヒットを見舞うシーンもあった。

 敗れても見応えのある打ち合いは称賛された。ある意味、八重樫らしさを十分に発揮した一戦と言えるだろう。

 これで世界への道は遠のいたかに思えた。しかし、15年12月、国際ボクシング連盟(IBF)ライトフライ級王座を獲得、日本人男子では3人目となる3階級制覇を達成した。通算成績は28勝(16KO)7敗。そのうち、6敗が世界戦だった。

 今後は大橋ジムでトレーナーを務め、テレビの解説者など活躍の場を広める予定だ。

 「自分の知識を生かし、ボクシング界に恩返しをしたい」と前向きなコメントをしている。

 大橋会長も「第二の八重樫を送り出してほしい」と期待を込める。熱血漢が後進をどう鍛え、指導していくのか。とても楽しみだ。(津江章二)

© 一般社団法人共同通信社