<再ブレーク盤>森川美穂『VERY BEST SONGS 35』多彩な曲を歌いこなす大器

 85年にデビューし、現在は大阪芸術大学教授もつとめる現役アーティストの35周年ベストが、実に23年ぶりの週間TOP30入りを果たした。高音質CDゆえ、歌声や演奏がいっそう煌めいて聴こえる。

 80年代のDISC1は、青春歌謡→中森明菜風の激しいポップス→火曜サスペンス主題歌風→爽快夏ソングと、節操のなく変化するシングルをどれもこれも歌いこなしているのが面白い。とはいえ、ASKAが詞曲を手がけた6作目の『おんなになあれ』での、突き抜けるような高音は出色で、以降、躍動的なポップス路線が定着したのも分かる。森川は、渡辺美里よりもポップス寄り、ZARDよりも厚みのある歌声で、彼女たちのように大ヒットしうる大器だとあらためて感じた。

 90年代以降のDISC2は、南の島を想起させる『ブルーウォーター』や、高校バレーのテーマソングで、本人が作詞に参加した『君が君でいるために』など、80年代以上にパワフルな歌声で魅了する。

 その一方で、ハードロック系の『傷痕』、妖しげなラテンポップスの『DOMINO』や『フィンガー』など、それまでのイメージを覆す作品も面白い。さらに、自作詞のしっとり系のバラードや、松井五郎作詞、松本俊明作曲の新曲『涙のあとにあなたがいれば』は、より緩急の効いた歌声に絆の大切さを教えられる。いつかLIVEで聴いてみたい。

 盛り沢山の全35曲ゆえ各曲の解説があればさらに深く聴きこめそうだ。ともあれ、基礎能力がしっかりしていれば、様々な分野に挑めることを彼女の多彩な作品から学ぶはず。

(ヤマハミュージックコミュニケーションズ・2CD 3200円+税)=臼井孝

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