「サッカーコラム」J1札幌・鈴木武蔵はどこまで成長するか ほどよく「荒さ」が消えた9年目のストライカー

横浜FC―札幌 前半、先制ゴールを決める札幌・鈴木(右端)=ニッパツ三ツ沢球技場

 J2とJ3に遅れること1週間、7月4日にJ1がリモートマッチ(無観客)で再開した。Jリーグより早くリーグ戦を再始動させた欧州各国の試合中継を見ていてスタンドに人がいないことに少し慣れた気がしていた。だが、自国リーグとなると別の印象を抱くものだ。その代表格が新型コロナウイルス感染拡大前に比べ、選手や監督の声がはっきりと聞こえることだ。外国語はただの効果音なのだが、日本語は言葉として響いてくるので、かなり面白い。でも、相手にも意図がばれてしまうのではないだろうか。

 そういえばJリーグ発足直前の日本サッカーリーグ(JSL)で圧倒的な強さを誇った読売クラブ(現J2東京V)では、敵に意図を悟られないようにあえてパスを出す相手の名前を呼んだり視線を合わせたりはしなかったという。

 それを踏まえると、1992年に日本代表監督に就任したハンス・オフトが持ち込んだ「アイコンタクト」(味方同士が目と目を合わせて、お互いの意図を確かめる動作)は、中心選手だったラモス瑠偉さんからするとまさに「冗談じゃないよ!」だったのかもしれない。

 昨年までは、取材する試合以外を同時に見ることはできなかった。試合が行われるスタジアムに行くのだから当然だ。ところが、現在は取材できる人数が制限されているため、自宅でインターネット放送を観戦するしかない。結果、さまざまな試合を見てしまう。

 第2節で興味を持ったのがJ1第2節、横浜FCと札幌による一戦だった。

 会場は横浜市のニッパツ三ツ沢球技場。スタジアムのすぐ近くには新型コロナの感染者を受け入れている横浜市立市民病院がある。試合は選手や関係者たちが医療従事者に感謝を表す拍手をして始まった。

 J1で戦うのは2007年シーズン以来となる横浜FC。対する札幌は移動時に感染するリスクを減らすため、第4節(7月12日)まで関東地方に本拠を置くチームと戦う。長期間の遠征は少なからずストレスになるだろう。しかし、試合はそのようなこともみじんも感じさせない見どころにあふれた内容だった。

 この試合で一番の発見は、札幌のFW鈴木武蔵だった。群馬県の桐生第一高時代から見ているのだが、印象は次のようなものだった。

 「足はとても速い。でもプレーは荒い」

 4年前のリオデジャネイロ五輪でも2試合に出場したが、それは変わらなかった。その意味で第一印象を変えるのは、かなり大変なことなのだ。社会生活でも同じ。最初が大事と、改めて自戒した。

 昨年3月には日本代表に初招集され、国際Aマッチに7試合出場しているのだから、誰が見ても間違いなく進化している。しかし、筆者個人はそれを自分の目で確認できていなかった。

 計算をした上で、点を取ようになっている―。そう感じたのは開始3分だった。左サイドを突破したチャナティップが内側にカットインすると見せかけて、いきなり縦に抜け出す。瞬間、鈴木はマークしていた横浜DF小林友希の背後に回り込み視界から消えた。シュートスペースを確保した後に、チャナティップがグラウンダーで丁寧に送ったクロスを左足ダイレクトでシュート。一度は小林のブロックにあったが、こぼれ球に素早く反応。左足でゴール左隅にボールを流し込んだ。

 かつて、鈴木はゴール前で力任せにプレーしていた。インステップでドカンと打ってゴール枠を外す。「荒い」と感じるゆえんだ。その鈴木が、今や欧州のトップリーグにいてもおかしくないほど洗練されていた。最も正確なインサイドキックで、GKの届かないところに冷静にボールを送り込む。それも利き足ではない左足で。このシュートができれば得点を量産できる。

 後半8分には、持ち前のスピードを披露して2点目を挙げる。自陣でボールをキープしたチャナティップが顔を上げたのを合図に、右手でスペースを指しパスを要求。2人のコンビネーションは秀逸だ。チャナティップも絶妙のボールスピードでスルーパスを通す。かけっこになったら鈴木が負けるはずがない。追いすがる横浜DF田代真一を置き去りにすると、右サイドを突進。最後はGK六反勇治の体重移動の逆を突き、右足インステップで低い弾道のシュートを冷静に突き刺した。

 周りを見る余裕があるのだろう。後半21分、イングランド代表にも招集されたことがあるFWジェイがフリーにもかかわらずシュートミスをした。その1プレー前、チャナティップにGKと1対1になるスルーパスを通したのは鈴木だ。リーグ戦でなかなか点を取れなかったころの鈴木しか見ていなかった人間にとっては、何とすごい点取り屋が日本に誕生したのだろうと驚くしかなかった。

 札幌の全得点となる2ゴールを挙げ2―1の勝利をもたらした。会見では「3点目を取れなかったことが残念だった」と悔しさを隠さなかったように、鈴木のゴールに対する欲求は尽きることはないようだ。

 8日の第3節鹿島戦でも鈴木は先制点を挙げて、チームとして19年ぶりとなる鹿島戦の勝利に貢献した。YBCルヴァン・カップも含めた今季4試合(7月10日現在)で5得点。一昨年は11点で昨年は13点と着実に伸ばしてきたJ1リーグ戦での得点数を20点に乗せるという今シーズンの目標も十分に可能だろう。

 鹿島戦で負ったけがの具合は気になるが、ストライカーとして確実に引き出しを増やしている鈴木がどこまで成長するのか。期待を込めて注目したい。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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