「サッカーコラム」日本人FWに足りないものが改めて明らかに J2京都・ウタカの得点は無意識に計算されている

京都―磐田 前半、先制ゴールを決めた京都・ウタカ(右)=サンガS

 シーズン開幕を前にして、決まってやることがある。新しいノートを用意するのだ。そこには、取材した試合のメンバーや試合中に起きたことを事細かにメモする。大切な「相棒」と言えるそのノートを約4カ月ぶりに開いた。そう、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中断していたJリーグが再開したのだ。

 両チームのメンバーを書いている時に、違和感を覚えた。文字がうまく書けない。考えてみたら2月以来、ほとんどペンを握っていない。プロのサッカー選手だって日常的に体を動かしていなければ、うまくボールを扱えなくなるのだろうか。

 6月28日に開催されたJ2第2節。無観客で行われた、いわゆる「リモートマッチ」の京都対磐田をインターネット放送で観戦した。現時点では取材できる記者の人数が制限されているため、スタジアムで取材ができるようになるのはまだ先になりそうだ。

 昨シーズン、J2で8位の京都がJ1から降格した磐田を新設した「サンガスタジアムbyKYOCERA」(京都府亀岡市)に迎えた一戦。両チームのストライカーに注目することにした。京都にはピーター・ウタカが今季加入した。2016年J1得点王だ。そして、磐田にも来年に延期された東京五輪の主軸と目される小川航基がいる。プレーを見たい両選手はともに先発した。

 本来ならば東京五輪を目前にした時期だ。小川はモチベーションを高めていたはずだっただろう。延期の影響が出たわけではないだろうが、小川のプレーは残念ながら平凡なものだった。

 磐田の攻撃のスタイルにも問題があった。ボールを回すのはいいが、バックパスが多い。結果、京都が敷く守備ブロックの外を行き来するだけ。勇気のある縦パスがほとんど見られず、前線に効果的なボールが入らない。当然、最前線にいる小川は孤立してしまう。

 一方、ウタカは抜群のプレーを見せた。

 得点感覚に優れる―。文字で書くと簡単に片づけられるのだが、高い得点能力を持つストライカーのプレーというのはとても緻密だ。ポジションの取り方、体の向き、ボールをインパクトするタイミング…。新スタジアムに名を刻む公式戦初ゴールは、ウタカの特長が数多く詰まっていた。

 前半28分、中盤左サイドでボールを受けた金久保順が顔を上げて前方を見た瞬間だった。清水DF大武峻と藤田義明のちょうど中間にポジションをとっていたウタカが前方のスペースに走り出る。それに合わせるように、金久保が浮き球の縦パスをゴール前のスペースに入れた。左半身になってボールを迎えるウタカは、あえてボールを触らない。ゴール前に流れるボールに対し反転。ワンバウンドしたボールの落ち際を左足でたたいて、GK八田直樹の逆を突いて右サイドに流し込んだ。

 簡単そうにゴールを決めたが、考え尽くされたプレーだ。2人のDFの中間に立つことで、相手のマークを曖昧にさせるポジショニング。浮き球のパスが目の前に来れば、本能的にボールをコントロールしたくなる。しかし、触ればDFに間合いを詰める時間を与える。それを避けるために自らの体の向きだけを変え、最後はGKの重心とは反対のコースを狙う。反射的というよりも、無意識の習慣として身に付けていなければ難しいゴールだろう。

 先制点は、パスの受け手と出し手の息がぴったりと合ったゴールだった。対照的に後半立ち上がりの追加点は修正力が光ったゴールだった。

 後半2分、左サイドから荒木大吾がドリブルでカットインする。ゴール中央でボールを呼び込んだウタカだったが、荒木のパスはゴール右の宮吉拓実へ渡った。ポストになった宮吉はダイレクトで中央のウタカにパス。狙いは前方のスペースだったはずだ。しかし、ボールが予想外に後方に来ると、ゴールを背にしたウタカは左足でコントロール。アウトサイドで外側に持ち出すと、反転して左足でシュートを放つ。ボールはDFの股間を抜け、ゴール右に転がり込んだ。

 ウタカのこの日の2得点はともに左足だった。だが、利き足は右足。狭いスペースで点を取るには両足でシュートを放つことができなければならない。そして、狙うコースは自分が動く方向の逆。GKはシュートを打つ選手の動く方向に、必ずポジションを修正する。重心は移動した方向の足になる。重心の逆であれば必ずしも強いシュートでなくても点を取れるのだ。

 「なかなかボールがもらえない時間もあったが、チャンスが来たら得点を取れると思っていた」。試合後の会見でウタカはストライカーらしく、こう語った。ゴールを奪う手順が、身についているからこそ、この言葉を発せられるのだろう。

 残念ながら、日本人にはこういう選手が少ない。若い年代から細かなところを突き詰めて、育成しなければ真の点取り屋は生まれないだろう。

 ネット放送で一つ気づいたことだが、解説者が笑える言葉を使っていた。「ペナルティーボックス」と。それはアイスホッケーで反則した選手が入る場所だ。大学で教える元Jリーガーの解説者は「ペナルティーエリア」と「ボックス」という言葉を一緒にしてしまったのだろう。うっかり口にしてしまったに違いない。しかし、インターネット放送でいつも以上に観戦する人が多いことを考えれば、この時期は正しいサッカー用語を使うことが望まれる。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

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