『マルモイ ことばあつめ』ど真ん中の韓国映画

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 日本でも話題を呼んだ韓国映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』の女性脚本家オム・ユナによる初監督作だ。「マルモイ」とは、言葉や方言を集める、つまり“辞典”のこと。1940年代、日本統治下の韓国で、母国語を守るために命懸けで辞書作りに取り組む人たちを、史実をベースに描いている。

 だから韓国版『舟を編む』とも言えるが、社会派で“命懸け”というところが、いかにも韓国映画らしい。そればかりか、前半では大いに笑わせ、後半は一転して緊張感あふれるスリリングな展開となり、最後にはどっと泣かせるという、絵に描いたようなど真ん中の韓国映画である。

 脚本の構造としては、やはり『タクシー運転手』とよく似ている。子供のためには悪さも辞さないような学のない主人公(何と非識字者!)が、歴史的な事件の中で次第に使命感に目覚めていく大人の再生物語、正反対の男二人が友情を育む凸凹コンビのバディ感…何より危機的な状況下で救いの神として現れる仲間たちの集団。実は『タクシー運転手』では、このシーンに白けてしまい、あまり評価できなかったのだが、本作を観て、これは西部劇だ! それも『荒野の七人』やハワード・ホークスによる痛快西部劇への一種のオマージュなのだと考えを改めた。ぜひ『タクシー運転手』と併せて観てほしい。★★★☆☆(外山真也)

監督・脚本:オム・ユナ

出演:ユン・ゲサン、ユ・ヘジン

7月10日(金)から全国順次公開

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