底知れぬ可能性秘めた大物ルーキー ロッテ佐々木朗希投手

取材に応じるロッテの佐々木朗希投手=3月11日、千葉市のZOZOマリンスタジアム

 プロ野球ロッテのドラフト1位ルーキー、佐々木朗希投手が、6月19日の開幕に向けて調整ピッチを上げている。

 5月26日に千葉市のZOZOマリンスタジアムで行われたシート打撃に登板。将来の球界を背負って立つと言われる超大物の片鱗を見せつけた。

 いきなり、先頭打者の菅野剛士に右中間スタンドへ運ばれたものの、ここからギアを一段階上げる。

 続く藤岡裕大の初球にはプロ入り初の160キロを計測。143キロのフォークボールで空振りを奪うと再び160キロの“火の玉ストレート”で空振りの三球三振。3人目の大卒ルーキー福田光輝にも真っ向勝負で最後は155キロ直球で空振り三振に仕留めた。

 岩手・大船渡高時代に最速163キロの快速球を投げて、関係者を驚かせた。190センチの長身に、長い手足に強靭さがある。加えて肩、肘の可動域が人一倍広いので鞭を振るようなしなりを生む。これが剛腕の秘密だ。

 この日の全11球中8球がストレート。平均球速は157.5キロだから並みの投手ではない。

 郷土の先輩である大谷翔平(現エンゼルス)が日本ハム時代にプロ入り初の160キロをマークしたのは入団2年目の2014年6月の対広島戦のこと。

 大谷はさらに球速を伸ばし、18年にはプロ野球最速の165キロをマークしている。だが、佐々木の場合はまだ開幕も迎えていない時期の数字である。

 しかも新型コロナウイルス禍にあって、満足な全体練習もできない特殊事情もある。いかに佐々木が、底知れない可能性を秘めているかがうかがえる投球内容だった。

 「東の佐々木、西の奥川恭伸(星稜高、ヤクルト1位指名)」と昨年のドラフトでも人気を二分した。

 奥川が右肘の軽度の炎症で出遅れたのに対して、佐々木は順調な成長曲線を描いてきた。今春の石垣島のキャンプには、ファンだけでなく評論家や報道陣が例年の3倍以上やって来る人気ぶりだった。

 東日本のスポーツ紙で言えば1面を飾る回数はトップ級。新型コロナウイルスの影響で開幕がずれ込む期間も、球団のインスタグラムを通じて室内トレーニングの様子やファンの質問に答えるなど、すでに球団の顔としての役割も担っている。

 さて、これだけの逸材を目の当たりにすると、次の関心はいつ1軍デビューするかだろう。

 井口資仁監督と吉井理人投手コーチら首脳陣の間では、当初から「無理はさせずに大きく育てる」という基本方針が確認されている。

 具体的には春先はファームで調整して、夏頃から1軍に上げる青写真が描かれていた。

 ところが、予期せぬコロナの影響で1軍も2軍も試合ができない中で6月の声を迎える。この間、自主トレ中心ではあるが体の方は「プロ仕様」に仕上がりつつある。

 そこで次に用意した舞台が今回の1軍選手相手のシート打撃であり、6月2日から始まる対外試合への登板だ。

 「自分が思っている課題を一つずつクリアしていってもらいたい。(他の投手陣に)いい刺激を与えてくれたらいいなと思っていますし、自分のペースをまずは作り上げてほしい」と井口監督は言う。

すぐに先発ローテーションに組み込んで投げさせることはないだろう。

 一方で「うちの投手陣で最もすごい球を投げている」と最大限の評価もしている。今後3週間ほどの練習試合を通じて結果を残せば、開幕1軍もあり得る。

 初のシート打撃を終えて佐々木が語った一番の収穫は「空振りが奪えたこと」だという。

 かつて、大谷は自らの投球を振り返って「160キロ近いストレートがあれば、ど真ん中に放ってもファウルを打たせる確率は高い。すると変化球も生きてくる」と分析した。

 ここに佐々木の驚異の記録がある。高校3年時に公開された15試合の投球内容だ。実に延べ262人の打者から125個の三振を奪っている。

 奪三振率は何と47.7%の高率だ(4月6日の日刊スポーツ)。数年後には大谷の持つ165キロの日本最速を抜き、170キロ超えが期待される逸材への夢は果てしなく広がる。

 すべてに完成度の高い奥川に比べて、佐々木は高校時代にはほとんど全国の強豪校との対戦がなかったことや、左脚を高く上げる分、盗塁を許す確率が高いのでクイック投球も身につけたい。

 変化球の精度も上げていかなければならない。そうした未完の部分はあっても、それを補って余りある魅力が佐々木にはある。

 今年ほどスポーツを渇望する年はない。フレッシュな怪物がいつも球界に新風をもたらしてきた。

 無限に広がるキャンバスに、18歳の若者はどんな絵を描いていくのだろうか。大物ルーキーから目が離せない。

荒川 和夫(あらかわ・かずお)プロフィル

スポーツニッポン新聞社入社以来、巨人、西武、ロッテ、横浜大洋(現DeNA)などの担当を歴任。編集局長、執行役員などを経て、現在はスポーツジャーナリストとして活躍中。

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