『カツベン!』周防監督、新境地の笑い

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 今年のお正月映画として公開された周防正行監督の5年ぶりの新作だ。日本映画黎明期の花形職業だった活動弁士にスポットを当て、弁士を夢見る青年の成長と恋が描かれる。周防監督にとって他人の脚本で撮るのは今回が初めてだが、日本映画に旋風を巻き起こした『シコふんじゃった。』『Shall we ダンス?』の頃のコミカルなテイストが復活している。

 ただし、厳密に言うと本作の笑いは明らかにスラップスティックに振れていて、90年代のタッチとは似て非なるもの。むしろ新境地と呼びたくなる。題材であるサイレント映画に引っ張られた…というよりも、サイレント映画が持っていたノリやテンポ、痛快さを再現するための選択だろう。

 もう1つの驚きは、小津安二郎への再接近。そもそも“小津マネ”で出発した周防監督は、次第に独自の作風を強めていくのだが、ローアングルや固定画面といったいわゆる「小津調」にこだわっていた初期よりも、今回の方が小津に近く感じられるのだ。その最たる例が、青木館(映画館)のシーン。固定画面の中で登場人物たちが部屋や廊下を動き回る情報の出し入れと運動性、そのコミカルなリズムは、『麥秋』などで大家族の日常をコミカルに描く際の小津の演出を思い出させる。階段を映さずに2階建ての空間を表現するところもそうで、スタイル以上に小津のエッセンスが色濃く漂うのだ。精緻さが生む弾けた笑い! 個人的には、周防作品史上一番好きだ。★★★★★(外山真也)

監督:周防正行

脚本・監督補:片島章三

出演:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、竹野内豊

6月10日にDVD発売

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