『蜜蜂と遠雷』原作のエッセンス崩さず映画の語り口へ

(C)2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

 2019年の日本映画を代表する一本だろう。報知映画賞や毎日映画コンクールの作品賞を受賞し、キネマ旬報のベストテンにもランクインしている。個人的にも昨年公開された日本映画で2番目に好きだ(1番は『町田くんの世界』)。直木賞と本屋大賞をW受賞した恩田陸の同名小説を原作に、国際コンクールで熾烈な競争を繰り広げる若き天才ピアニストたちが描かれる。

 ただし、原作が多彩な文章表現を駆使して「天才とは?」「才能とは?」に迫る群像劇なのに対し、映画は主人公を4人に絞り込むことで、もう少し等身大の成長物語になっている。とりわけ、4人が互いに影響を及ぼし合う、つまり天才同士の相乗効果によって成長していく構成がうまく、原作のエッセンスを崩さずに映画ならではの語り口へと置き換えられている。

 監督は、『愚行録』の新鋭・石川慶。長編はまだ2作目だというのに、細部まで計算された演出ぶりには風格さえ漂う。驚くべきは、限定された時空間を逆手に取ったアプローチ。例えば、片桐はいり扮するクロークの受付嬢を繰り返し登場させることで、あたかも舞台劇の幕間や小説の章立てのような効果を挟み込み、雨や記憶といった視覚と聴覚の両方に訴えかけるイメージを積み重ねて揺るぎない世界観を構築していく手腕には、瞠目させられる。演奏の出来をセリフや客席の反応で説明しない大人の節度も魅力で、コンクールを扱った映画の最高傑作に推したい。★★★★★(外山真也)

監督・脚本・編集:石川慶

出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士

デジタル配信中、DVD&Blu-ray発売中

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