『客室乗務員の誕生』山口誠著 時代を映し「おもてなし」の達人に

 言われてみれば、「お・も・て・な・し」をプレゼンする滝川クリステルのファッションは限りなくスチュワーデス風だった。端正な容姿も、英語とフランス語で伝える国際性も、醸し出すセレブ感も。スチュワーデスではない。今はCA(キャビン・アテンダント)、客室乗務員と呼ぶ。

 CAがいかにして自他ともに認める接客マナーのプロとなり、日本の伝統文化たる「おもてなし」を先導する存在になったか。歴史資料とメディア情報を駆使して、その変遷を精緻に跡づけた。

 日本初登場は1931年。「エアガール」という呼び名は新聞に「エロ・ガール」と揶揄されたが、戦後は容姿、学歴に加えて英語や行儀も求められる「雲の上の存在」に。高度成長期には空の移動の大衆化に伴って憧れの職業となる。

 航空技術や航空業界の推移、社会の動向に伴って変転するCAの呼称、雇用条件、役割、服装。社会学者の面目躍如たる分析が展開する。なかでもCA をヒロインとする人気テレビドラマの比較が面白い。

 1970年の「アテンションプリーズ」に対して83年の「スチュワーデス物語」が研修劣等生の成長物語だったことに着目し、訓練センターのマナー研修が「自分磨き」の場になったと読み解く。すなわちCAが「憧れの職業」から「憧れの自分」を手に入れるためのルートに転換したというのだ。

 2006年にヒットした「アテンションプリーズ」リメイク版では、接客マナーの訓練シーンが圧倒的に増えた。「自分磨き」の達人は、やがて日本の伝統的価値に結びついた無償奉仕たる「おもてなし」の担い手へと“進化”する。

 人々の期待と欲望を映し出すCAを通して時代と社会を読み取る。社会学の醍醐味をたっぷり味わった。

(岩波新書 840円+税)=片岡義博

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