『おかあさんライフ。』たかぎなおこ著 全身全霊のかわいいも、ちょっとだけのほろ苦さも。

 たかぎなおこって、あれですよね、走ったり旅したり一人暮らしの生活だったり、身長低いあるあるのマンガなんかを描いてる人ですよね?と知ったようなことを言いましたが、たった今、本書の巻末を見て知りました。そうそう、言われてみればこの絵、この顔、よく見かけるなー。

 思い起こせば書店を徘徊するたびに、手には取らないものの「この人一人暮らし5年目なんだぁ……」とか「マラソンしてんだぁ……」とか「ローカルグルメの旅に出たんだぁ……」とか「一人暮らし9年目なんだぁ……」「もう何年目かもわかんなくなってきたんだぁ……」と、うっすら、ぼんやりと視界の端でその表紙を認識し、サブリミナル効果のごとく私の中の知名度をじわじわ上げてきた漫画家、たかぎなおこ。そんなたかぎをはっきりと認識したのは前作でのことだった。け、け、け、結婚しとるやないけーーー!四十路過ぎてーーー!!!おおお相手は!?四十路ーー!!おなじく四十路ーー!!最高ーーー!!!すみません取り乱しました。そうです、彼女は前作「お互い40代婚」で結婚を発表したのであります。あっぱれ。

 で、それから約2年の時が流れ(えっ2年……?身を任せすぎた結果が怖い)、ついに、堂々、満を持して、新刊が発売された。その名も、ドドン!「おかあさんライフ。」たかぎさんが!お母さんになってるんです!!すごい、嬉しい!なんか往年のファンみたいなテンションだけど!お初にお目にかかるのだけど!サブリミナル効果の表れかな。情緒不安定なのかな。なにはともあれ新刊、お祝いがわりにお買い上げいたします。これをミルク代にしてくださいね〜(恩着せがましさの極み)。

 本書は、「なおこやん」ことたかぎと「おつぐやん」ことその夫が、40代にして初めての子育てに奮闘する日々を描いたコミックエッセーだ。娘「むーちゃん」が生まれた日のこと、産院で母子ともに涙を流した夜、ばぁばとじぃじが来てくれた日のこと、初めてのワンオペ、ピクニックにハイハイレース、風邪を引いちゃった日のことや、お年玉にお雛様、盆踊りにおはなし会、公園デビューにお誕生日。140ページほどのこの本の中には、たくさんの「初めて」が詰まっている。

 中でも印象的だったのが、むーちゃん7カ月目で訪れた、なおこやんの一人お出かけ。産後初となる単独行動、目的は7カ月以上ほったらかしになっていた髪を切りに行くことだ。家を出て早々、やけに両手が軽くて落ち着かないなおこやん。ひとりで電車に乗るのも、思い出せないくらい久しぶりだ。髪もさっぱりして、ちょっと洋服を見に店に入るが、「でもいまは、こんな薄い生地の服は着られないか…」と諦め店を出る。「久しぶりに街ぶらぶらしていると…出産後私の生活はずいぶん変わったけど…日常の世界は変わらず続いていたんだなぁ〜と…」そんなことを思いながら、手の軽さがどうにも落ち着かなく、結局なおこやんはすぐに帰宅した。

 なんだろう、この感じ。温度差、なのかな。我が家で起きている騒動や、日進月歩で成長する娘と、変わらない(ように見える)社会との温度差?それとも、社会から断絶されてしまったような寂しさなのかな。お母さんって、こんな気持ちになることもあるんだ。子どもが生まれたことって、育児にドタバタな暮らしって、決して悲しいことではないはずなのに、なんだかちょっとだけほろ苦い。

 閑話休題。なーんておセンチぶっかましてる暇なんてないほどに、むーちゃんてば超かわいいんですよ!「育児メモ」と称して、その日のむーちゃんのスケッチがたくさん載ってるページなんて、一瞬たりとも見逃したくないっていう二人の気迫がものすんごい伝わってくるし。そして四十路で親となった二人だから、両家のじぃじとばぁばからのプレゼントの激渋さに戦慄が走ったり。

 子どもってすごいねえ。めちゃくちゃ大変そうだけど、これまで知らなかった感情も経験も景色も、教えてくれるんだね。産む予定なんて一切ないのに初めての沐浴も初めてのオムツ替えも経験したような充足感で本を閉じました。はいこれ幻覚!

(KADOKAWA 1100円+税)=アリー・マントワネット

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