『「駅の子」の闘い』中村光博著 戦争孤児たちの証言

 戦争孤児のイメージは「火垂るの墓」の兄妹、最近なら連続テレビ小説「なつぞら」のヒロインだろうか。だがその実態はほとんど分かっていない。かつて戦争孤児だった人々の声を丹念に集め、戦後史の空白に迫ったNHKスペシャルを書籍にまとめた。

 なぜ「空白」だったのか。戦争孤児はその過去を隠して生きてきたからだ。戦禍で親を亡くした孤児は生き抜くために物乞いをし、盗みを働いた。「戦災こじき」といじめられ、犯罪者のように扱われた。

 証言者が語る当時の状況は凄絶だ。野良犬と一緒に残飯をあさり、栄養失調で視力を失い、13歳で性病にかかる少女もいれば、列車に飛び込んで命を絶つ仲間もいた。心に負った深い傷は癒えず、いまだ苦しみ続けている者、社会の冷たい仕打ちと国の無策に怒りをあらわにする者もいた。

 意外だったのは、飢餓や物乞い以上に「親戚にいじめられることほどつらいものはない」という証言だ。「火垂るの墓」の兄妹も疎んじられた親戚宅を出て孤児になる。証言者は涙を流して語る。

「子どもたちはみんな飢えていた。もちろん食べ物には飢えていた。着るものもなくて毎日寒かった。だけど本当にほしかったのは、ぬくもりなんですよ」

 今、いじめや虐待、貧困のさなかにある子どもたちは、かつての戦争孤児たちのような絶望的な孤立感と大人への不信感を募らせているのではないかと著者は問う。

 戦争孤児のテーマは過去の話ではなかった。子どもたちの闘いは今も続いている。

(幻冬舎新書 880円+税)=片岡義博

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