熱気が詰める隔たり 嵐ライブでチームラボ体感

チームラボ「人々のための岩に憑依する瀧」の展示=2019年10月、中国の「チームラボボーダレス上海」

 2018年11月に幕を開けた人気グループ「嵐」のデビュー20周年記念の5大ドームツアーは、1年以上にわたって行われ、50公演で237万5千人を動員した。19年12月25日、東京ドームでの最終公演は、その場にいる人々のエネルギーが最大限に相乗作用し、熱気に包まれ幕を閉じた。

 演出の軸となったのは、最先端のデジタル技術を用いた映像だ。リオ五輪の閉会式でAR(拡張現実)を駆使して注目を集めた「ライゾマティクスリサーチ」がテクニカル監修を担い、広告などで活躍する「WOW」が「5×20」を担当。そして東京や中国・上海で自作の美術館を展開する「チームラボ」が「果てない空」などを手掛けた。

 いずれも日本を代表するメディアアートの集団だ。しかし、東京ドームという広大な空間で、その演出は功を奏するのか。空中にバルーンを浮遊させるなど、立体的な装置を多用する場合に比べ、平面的な映像では、観客と出演者の間に大きな空間、つまり隔たりが残る。それは寒々しさをもたらしかねない。

 この高いハードルをどうやって越えるのか。

 特にチームラボの作品の醍醐味は、身体的な知覚を伴い、作品に没入できるところにある。作品の根底にあるのは、代表の猪子寿之さんの「全てが連続するような、境界のない一つの世界を作りたい」という思いだ。鑑賞者が作品同士の、あるいは自身と作品との連続性を味わうには、作品の中を動き回ったり、映像作品に触れたりしながら体感することが、重要な役割を果たす。

 ライブでは観客が自由に動き回ることも、映像に触れることもできない。出演者である嵐のメンバーのパフォーマンスを、その動きに応じて変容する映像を背景に見るのだ。画面は巨大だが、距離はある。どうしたら体感できるのか。18年12月の公演では、答えを見つけられなかった。

 1年後、再び東京ドームを訪れ最終公演を取材した。19年1月に嵐が20年末での活動休止を発表していた。次にここで5人がそろってライブを行うのはいつになるのか―。嵐ら出演者と5万5千人の観客の思いが合致したのだろう。一気に熱気がドームを満たし空間が埋められていった。

 プログラムはほぼ同じなのに新鮮だ。「Step and Go」では斜めに列を成した5人の動きが連続して美しい流れを生み出す。「truth」は、炎が上がる中、5人のダンスの鋭さが際立つ。5人で一つなのだと再認識させられた。

 「果てない空」では、5人の動きが背後に映し出されるチームラボの作品と相互作用する。観客は、熱量によって5人と隔たりを詰め、嵐に乗り移ったように作品を体感していたのではないか。

 「技術がすごいってことよりも、あったかくなるってことが最重要だと思っていて」。演出を手掛けた嵐の松本潤さんが、米動画配信大手ネットフリックスで放送中のドキュメンタリー番組「ARASHI’s Diary―Voyage―」で、ライブのプランを立てながらスタッフに語った言葉にうなずいた。(高橋夕季・共同通信記者)

© 一般社団法人共同通信社