<大ヒット盤> 森七菜『カエルノウタ』 不安げな歌声だからこそ惹き込まれてしまう

森七菜『カエルノウタ』

 2001年大阪府生まれ、大分県出身の女優の歌手デビュー作。決して声量に恵まれている訳ではないが、その不安げな歌声だからこそ聴き手がつい惹き込まれてしまうような不思議な魅力がある。

 表題曲は、自身も出演している20年の映画『ラストレター』の主題歌で、同映画の監督を務める岩井俊二が作詞、同映画の音楽を担当する小林武史が作曲・編曲するバラード。水辺で恋しい人を待つという内容の散文詩を、森が透明感のある歌声で不器用でも一語ずつ丁寧に歌っているのが、主人公の無垢な心象風景を際立たせている。これはベテラン女優が演劇タッチで歌ったら、かえって逆効果だろう。

 カップリングには、小林武史の出世作でもある小泉今日子の『あなたに会えてよかった』とユーミンのデビュー曲となる『返事はいらない』を収録。前者は、18歳という年齢以上に幼さの残る歌声ゆえに、少女の純粋な想いが伝わる。また、後者は、4つ打ちのリズムにアレンジしたことで、未来に向かって歩いていくような風景が目に浮かぶし、初期ユーミンにも通じる飾らない歌唱が、風を感じさせて心地よい。彼女には、松本隆の作詞曲が意外と似合いそうだ。

 3曲すべてInstrumentalも収録されているので、小林武史の緻密なアレンジをじっくり堪能できる。本作を聴けば、伸びしろのある家族や後輩により温かな視線を送れるようになるはず。

(ソニー・1500円+税)=臼井孝

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