『ふたりのJ・T・リロイ』 みんな、「何者」かに憧れている

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 私が高校生の頃、ある本がベストセラーになりました。シングルマザーに育てられ、若くして女装の男娼となった男の子の実話を元にした自伝「サラ、神に背いた少年」です。センセーショナルな過去を背負った作家J・T・リロイは、美しい金髪にサングラス、ミステリアスな雰囲気をまとった美少年でした。私自身、彼に夢中になって、部屋にポスターを飾っていたのを覚えています。当時、アメリカでも彼の過去と、彼が紡ぐ美しい言葉に多くのセレブリティが夢中になりました。でも2006年、ニューヨーク・タイムズによって、リロイの正体はローラ・アルバートという40歳の女性だったこと、リロイは、ローラのパートナーの妹だったサヴァンナが演じていたことが明るみに出たのです。

 この映画は、自分の姿を偽り続けたローラと、リロイになりきっていたサヴァンナの物語。映画を観ていると、自分に自信がなくリロイという<アバター>を作り上げてしまったローラにも、リロイになったことでセレブから注目され人生がすっかり変わったサヴァンナにも、どこか共感してしまった自分がいました。若い頃、もしも自分じゃないカッコいい誰かになれていたらきっとその人生を気に入ってしまうんじゃないかなあ。子供の頃に憧れたクリィミーマミという変身アニメを思い出しちゃいました。

 サヴァンナは映画『トワイライト』シリーズのクリステン・スチュワートが、ローラはローラ・ダーンが演じています。クリステンの中性的な魅力はリロイそのもので、見ていると、自分の部屋に貼っていたリロイのポスターを思い出しました。当時、彼らはマスコミからそれはそれは叩かれたのですが、この映画を観れば切ないくらい理解できる。もちろん、ふたりのバックグラウンドを知らない人でも楽しめる作品です! ★★★★☆(森田真帆)

監督:ジャスティン・ケリー

出演:クリステン・スチュワート、ローラ・ダーン、ジム・スタージェス

2月14日(金)から全国公開

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