『山中静夫氏の尊厳死』 人間の死に真正面から向き合う

(C)2019 映画「山中静夫氏の尊厳死」製作委員会

 医師として働くかたわら、芥川賞作家としても活動している南木佳士の同名小説の映画化。末期ガンに冒された患者と、彼を見守る医師の関係を軸に、病院で死ぬということ、人が死んでいくこととは何かをテーマにしたヒューマンドラマです。肺ガンを患って、余命宣告を受けた山中静夫は「自分の故郷である信州で死にたい」と考え、外出許可を取って家族の墓のそばに自分の墓を造りだしますが、病魔は少しずつその体を蝕んでいきます。堪え難い苦痛の中で、彼は担当医の今井に「楽にしてほしい」と頼みます。延命治療をどこまで行うべきなのか、医師としてやれることはあるのか。今井医師は、自らも日々の診療に忙殺され、多くの死と向き合う中で心を病みながらも、山中の尊厳死と真正面から向き合うことになります。

 今井医師は津田寛治、山中は中村梅雀と、名優2人が演じています。梅雀による、どこか可愛らしく気の良い山中の姿。津田は、うつ病になりながらも真摯に患者と対峙し、医師としての決断を迫られる今井を静かな演技で魅せます。原作者の南木佳士も居を構える長野県佐久市の美しい風景の中、「死」という、人生で最も身近で恐ろしいテーマを演じる役者たちの演技は心に迫ります。

 私も、父がガンの再発を繰り返して何度も入院しています。地味なテーマかもしれませんが、だからこそ自分がどんな死を迎えたいか、自分の親や、身近な大切な人にどんな死を迎えさせたいか、病院で死ぬということをもう一度考えさせられた作品でした。★★★★★(森田真帆)

監督:村橋明郎

出演:中村梅雀、津田寛治、小澤雄太

2月14日(金)から全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社