『肌がきれいになる石けんオフメイク』石けんオフメイク研究会著 油性ペンでアイラインの反動か?

 突然ですがお父さん、ご存じですか。お化粧にはいつだって、クレンジングが付いて回るものです。化粧をしたら落とす。これは風呂に入るには湯を沸かす、夜は就寝朝起床と同様、常識中の常識、美容における基本のキと言っても過言ではないでしょう。

 メイクを始めてざっくり四半世紀、思えばありとあらゆるクレンジングを使用してきました。洗面台にあった母親のコールドクリームに始まり、角栓ポロポロ系オイルに低刺激、デパコスVSプチプラ、ポイントメイクのリムーバーに、お値段なんと1万円(!)美容液配合の高級品まで。そんな紆余曲折を経て、私の手元にはこの本が。石けんオフメイク、だと?えー。落ちなさそうだし発色とかイマイチなんじゃね?と思わなくもないけども、化粧を始めてざっくり四半世紀、肌が疲れてきているのは否めず、試しに手に取る。

2017年に発売され話題を呼んだ「クレンジングをやめたら肌がきれいになった」、その第二弾である本書。前作に引き続き安達祐実がモデルを務め、メイクアップの実例やアイテムの紹介などを通して石けんオフメイクの可能性を探っている。

 そもそもどうしてクレンジングはよろしくないのか。それは「界面活性剤」なるものがキーワードだと本書は語る。油を水になじませる性質を持つ成分らしいのだが、なかなかの曲者らしい。というのも、肌に密着している油性のメイクを浮かせると同時に、肌が本来持っている脂質も一緒に洗い流してしまうんだそう。そうなると肌のバリア機能が乱れ、ニキビや肌荒れ、乾燥に炎症といったトラブルが発生するんだとか。

 そこで登場するのが「石けんだけで落とせるアイテム」。油性の合成成分を使っておらず、天然由来成分で構成されているので、肌への負担が軽いんだって。だから肌が本来の元気を取り戻し、きれいになっていくんだって。ほんまかいな、と思わなくもないのだけど、

 その穿った見方は次のページをめくることにより、光の速さで矯正される。

 安達祐実、どえりゃあ、かわいいんだもん。

 もともと彼女はとんでもなくかわいい。OLがお立ち台で扇子を振る、あの時代からそれはすでに確立されていた。小さい祐実の「具が大きい」は、四角い仁鶴が丸くおさめると同様に、いやそれ以上に国民に認知され、そのほかにも数々の社会現象を巻き起こした。あれから時が流れ、安達は子役時代の可憐さはそのまま、年を重ねた女性が放つ妖艶な魅力も醸し出し、今ふたたび注目を集めている。そんな彼女がモデルだもん。そら夢膨らむわ。

 読み進めつつふと気づく。「REX〜」叫んでた安達も四十路間際。年齢不詳の彼女だが、実はコギャルブーム世代ど真ん中ということを。

 覚えていますかお父さん。バブル崩壊あたりから始まった件の流行。肌を焼き、髪を染め、惜しげも無く脚を出し、アイラインは油性ペンなんて強者もいたあの文化。ガングロだのヤマンバだの、そもそもの言葉の定義が揺らぐほど破壊力満点な「かわいい」を生んだあの時代。若さにかまけて、今しかできない服を、髪を、メイクを謳歌した、とてつもなくパワフルで刹那的なあの子たち。安達はまさにその世代を代表する女優だ。

 そういえば、コギャルもそうだし大人もそうだけど、メイクって余裕のある人しかできないですよね。経済的な意味でも精神的な意味でも。既婚者、とりわけ乳幼児連れてるお母さんって忙しさでそれどころじゃないって人多そうだし、そもそももうボーイミーツガールの市場に繰り出す必要がないわけだから、そら化粧も薄くなるわ。

 となると本書はギャル文化謳歌し肌がお疲れ気味の、そして独身で誰かと出会う可能性を持った、アラフォー女性に向けたものなのかもしれない。四十路女には同情も金もくれない世の中ですから(くれても困る)、せめて私たちは5年後10年後の私たちに、美しい肌をあげられるように、本書を読むのかもしれません。今さえ良ければいいって油性ペンでアイライン引いてた、あの頃の反動だったりして。

(文藝春秋 1400円+税)=アリー・マントワネット

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