『夢中さ、きみに。』和山やま著 唯一無二の心地よさ

 書籍化される前からSNSなどでも話題を呼び、雑誌「TV Bros.」のマンガ賞「輝け! ブロスコミックアワード2019」にて大賞を受賞した本書。男子高校生たちの「ボーイ ミーツ ボーイ」の瞬間を、オムニバス形式で描いている。

 高校2年の江間は、体育祭の借り物競走で「かわいい人」というお題を受け、その前に行われた障害物競走でありえない網の引っ掛かり方をし「パリコレっぽい」ことになっていた林を借りることにした。以来江間は、ことあるごとに林から「僕かわいい?」と絡まれるようになる(「かわいい人」)。本の感想をSNSにアップしている女子高生「おいも3兄弟」は、珍しく自分の投稿にコメントをつけた「仮釈放」のことが気になりはじめる。数日後の下校時、おいも3兄弟は仮釈放と思われる少年を見つける(「友達になってくれませんか」)。「走れ山田!」そう叫ぶマサヒロさんの声が聞こえたら、授業中でも購買に走って向かわなければいけない。そして購買で、山田は毎日母から昼食代として貰っていた500円で弁当を買い、それをマサヒロさんに渡すのだ。そんなある日、山田は男子トイレで札が何枚も入った財布を拾う。それがマサヒロさんの財布だと気付いた山田は……(「走れ山田!」)。

 不思議な話だ。淡々とした展開の中に散りばめられているシュールな笑い。夢のような浮遊感もあれば、容赦ない現実も描いている。しかしどの物語にも必ず、優しさというよりもいたずら心みたいなコミュニケーションがあり、救おうなんて微塵も思っていないはずなのに、結果ふっと救われている。ジャンルで言ったらBLになるのかもしれないが、激しさはどこにもない。身体的な接触はなく、心の機微を、クラスメイトの枠を超えない交流を丁寧に描くことに徹している。これまで出合ったどの物語とも違う

 その唯一無二の心地よさに、わたしだって夢中だ。

(KADOKAWA 700円+税)=アリー・マントワネット

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