「サッカーコラム」苦しむJ1王者・川崎に“処方箋”はあるのか

C大阪―川崎 後半、ゴール前でパスがつながらず悔しがる川崎・小林(左)=ヤンマー

 同じ気温でも、空気が8月までとは入れ替わった気がする。暦の数字が一つ進んだだけだが、確実に秋は近づいているのだ。天気が優しくなったことでホッとしている人も多いだろう。中でも喜んでいるのは選手たちだろう。日本の夏は、サッカーをするにはあまりにも過酷だ。

 上位3分の1ぐらいに位置するチームに優勝の可能性があるJリーグ。ユベントスやFCバイエルンのような絶対的な存在がない日本は、世界的に見ればかなり特異なリーグだろう。それゆえ、この国では優勝争いしたチームが翌シーズンは一転して不調に陥りJ2に降格するということも実際に起きている。

 タイトルを争う。逆に降格争いに巻き込まれてしまう。チームの浮沈は、体に厳しい夏場にどう戦うかだに掛かっている。内容を求めることが難しいこの時期にいかに勝ち点を稼ぐか。それで、ゴールテープを切る順位が変わってくる。

 今シーズン、鹿島(2007~09)以来、2チーム目となるJ1リーグ3連覇を狙った川崎の調子がいまひとつ上がってこない。9月1日の第25節ではアウェイでC大阪に1―2で敗れ、順位を5位に落とした。残りが9試合となった時点で、首位FC東京との勝ち点差は11。数字的には可能性は残っているものの、上位4チームの取りこぼしを期待しなければいけないという意味で、かなり難しい状況に追い込まれた。

 ボールを保持し続けるという川崎のプレースタイルは過去2年間、夏場にこそ威力を発揮してきた。それでなくても暑さで走れない時期に、受け身に回った相手を“走らせて”体力を奪う。そして、試合終盤に止めを刺す。これが必勝パターンだった。

 事実、7月、8月の成績を見ると、初優勝を飾った17年は9試合を6勝2分け1敗。連覇を飾った昨年は8試合で6勝1分け1敗。落とした勝ち点は7ポイントと4ポイントと、ほぼ取りこぼすことのない成績だった。

 しかし、今年は何かが違う。7月、8月の8試合で2勝4分け2敗。取りこぼしのポイントが14と大幅に増えた。敗戦数が1試合多いが、それ以上に痛いのが引き分けの多さだ。ここだけで8ポイントも失っているのだ。

 首位に迫るためにも勝ち点3が必須だったC大阪戦でも、チグハグさが目立った。開始2分にセットプレーから簡単に失点し、いきなり追いかける展開に。前半13分に阿部浩之が美しい同点シュートを決めて主導権を取り返したように見えた。事実、前半はほとんどの時間に敵陣でボールを回し続けた。ところが、一番の目的である追加点が取れない。

 そうこうしているうちに後半9分に、30歳でJ1デビューを果たしたC大阪のニューカマー鈴木孝司にJ1初ゴールを決められた。結局、これが決勝点になってしまった。優勝争いに加わるために、勝ち点を積み上げなければならなかった直近の6試合で3分け3敗。去年まで、他チームを圧倒していた夏場の強さはすっかり影を潜めてしまった。

 リーグを制した過去2シーズンの勢いが感じられない。本拠地にちなみ「等々力劇場」とも形容された劇画のような勝ち方。リードされた試合でも、終盤に試合をひっくり返してしまう神通力が見られない。後半33分にクロスバーに弾かれた小林悠のヘディングシュートなど、昨年なら決まっている場面だ。バーの太さは12センチ。今年の川崎は、そのわずか数センチがずれているのかもしれない。

 記者会見で川崎・鬼木達監督は、このように発言したという。

 「3連覇を目指しているなかで、(選手たちは)想像以上にかなりプレッシャーを感じていますし、やはり開き直りというか、気持ちをフレッシュにしないとなかなか思い切ったプレーができない」

 ボールを6割保持しながらも、思うようなプレーが出ていないことはシュートの数字に表れている。C大阪は9本のシュートのうち6本がゴール枠内を捉えたのに対し、川崎は14本のシュートを放ちながらも枠内はわずかに3本。正確さを求めるあまり慎重になることでシュートタイミングを逸し、結果的にコースを消されている。最低でもゴール枠内にボールが飛ばなければ、ゴールは生まれないのだ。

 「自分たちで難しくしていると思う」

 キャプテンの小林が語った感想は、その通りだろう。過去2シーズンは、目前の試合に勝つことをのみに集中してタイトルを取った感がある。しかし、王者として「どのように勝つか」を考え始めた今季、思考と体の動きにちょっとしたタイムラグができているのかもしれない。

 チームとしての川崎は、現在でもリーグトップレベルの戦闘力を持っていることは疑いようがない。ただ、その強さは相手にとって予測可能なものだ。一方、タイトルを取った過去2シーズンの川崎には何をしでかすか分からない強さがあった。見ている側からすれば、あきれるほどのドラマ性を持っていたのだ。3連覇に向けた、奇跡の巻き返し。それを実現させるためには、何物をも覆すその力が不可欠だ。

岩崎龍一(いわさき・りゅういち)のプロフィル サッカージャーナリスト。1960年青森県八戸市生まれ。明治大学卒。サッカー専門誌記者を経てフリーに。新聞、雑誌等で原稿を執筆。ワールドカップの現地取材はロシア大会で7大会目。

© 一般社団法人共同通信社