<ブレーク盤> 木川尚紀『泥だらけの勲章』 若く、力強く伸びる中高音が気持ち良い

木川尚紀『泥だらけの勲章』

 1997年生まれの男性歌手のデビュー・シングル。泥で汚した作業着風の衣装や、大根や人参を抱えた宣材写真は、平成どころか、昭和中期までタイムスリップしたかのようだが、歌唱も当時の正統派スタイルで一貫しており、昭和歌謡ファンにもオススメしたい。

 表題曲は、泥だらけ、傷だらけになっても夢を追い続けるという自身への応援歌。『北の漁場』風にサビで歌い上げる部分での、彼の若く力強く伸びる中高音が気持ち良い。「好きな歌手」として三波春夫、三橋美智也、春日八郎の名前を挙げるのも納得した。

 カップリングの『てるてるぼうず』は、しんみりとさせるバラード。母の苦労に代わって働くために上京したが都会の厳しさに負けそうになり、三畳のアパートで故郷を想いながら小銭を貯める。そんな、半世紀前の情景も彼の真っ直ぐで温かい歌声で聞くと、各々が持つ昭和の記憶とリンクして目頭を熱くさせることだろう。それゆえ、マイナー調の楽曲ももっと聞いてみたいと思った。

 2曲とも、作詞:田久保真見、作曲:花岡優平、編曲:川村栄二によるもの。彼の歌声を聴けば、混沌とした令和時代においても、美しい景色を心の中に保つことができるはず。

(テイチク・1204円+税)=臼井孝

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