『人間失格 太宰治と3人の女たち』 洗練された映像美に圧倒される

(C)2019「人間失格」製作委員会

 7月に『Diner ダイナー』が公開されたばかりの写真家・蜷川実花の映画監督第4作が、早くも公開に。日本人離れした色彩が横溢する世界観は今回も健在。というより、もはや「色彩の魔術師」「色彩の天才」と呼びたくなるレベルだ。前作では、色彩設計を意図的にグロさの側に寄せていたが、今回は王道。風車や彼岸花、喀血の赤と雪や白い花びらの強烈なコントラストをはじめとする、洗練されたカラフルな映像美に圧倒される。また、突然鳴りだす音と色彩のコラボも見事だ。

 内容に目を向けると、本作は太宰治の代表作『人間失格』の映画化ではなく、その誕生秘話で、太宰最晩年の女性遍歴(妻・津島美知子、『斜陽』のモデルとなった太田静子、心中を遂げた最後の愛人・山崎富栄との関係)が描かれる。それは、芸術のため? 単に自分の欲望から? 女性たちを利用し、家族を犠牲にして小説を書き続ける太宰を通した蜷川実花流の“芸術論”となっていて、ユニークなのは、太宰を時代の寵児へと押し上げた当時の大ベストセラー『斜陽』よりも、今も古びず読み継がれている『人間失格』を真の代表作とみなす、年月の風雪に耐え得るか否かという芸術基準だろう。さらには、3人の女性の三者三様の生き方を比較する“女性映画”の側面もあって、現代性への気配りも抜かりない。★★★★★(外山真也)

監督:蜷川実花

出演:小栗旬、宮沢りえ、沢尻エリカ、二階堂ふみ

9月13日(金)から全国公開

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