『トールキン 旅のはじまり』 ファンタジー作家を生んだ友情、恋、戦争…

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 『指輪物語』『ホビットの冒険』で知られるイギリスのファンタジー作家J・R・R・トールキンの伝記映画だ。12歳で孤児となった彼は、母親の友人だった神父が後見人となり、奨学金を得て上流家庭の子息が通うキング・エドワード校、名門オックスフォード大学へと進む。本作では、そんな学生時代の友情と恋を軸に、作家活動に入る前の半生が描かれる。だから、もちろん波乱の人生が創作活動にどう影響を及ぼしたかという名作誕生秘話の側面もあるけれど、それ以前に普遍的な青春映画として楽しめる。

 特筆すべきは、冒頭でいきなり描かれ、途中繰り返し差し挟まれる第1次世界大戦のシーン。トールキン自身も従軍し、親友を2人も奪ったこの戦争が、彼の心に残した傷の大きさが強調されるのだ。彼の作品に登場する炎を吐くドラゴンが戦争のメタファーだとする解釈の下、炎や血、夕陽の赤やオレンジ色が幾度となく画面を彩り、まるで通奏低音のように本作のルック(ビジュアルイメージ)を規定していることに注目したい。

 監督は、フィンランド映画界の第一人者ドメ・カルコスキ。ゲイアートの先駆者トウコ・ラークソネンの伝記映画『トム・オブ・フィンランド』も現在日本で公開中だが、その確かな世界観の構築力は、今後間違いなく日本でも評価されるはずである。★★★★☆(外山真也)

監督:ドメ・カルコスキ

出演:ニコラス・ホルト、リリー・コリンズ

8月30日(金)から全国公開

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